MUGENUPのいまとこれから(1) クリエイティブ事業の立ち上げ - MUGENUP10周年企画インタビュー -

MUGENUPのいまとこれから(1) クリエイティブ事業の立ち上げ - MUGENUP10周年企画インタビュー -

本メディア「いちあっぷ」を運営する、株式会社MUGENUPは2021年6月14日に創業10周年を迎えました。今回はこれまでの記事と毛色を変えて、MUGENUP10周年企画記事をお届けします。

 

第一回は株式会社MUGENUPの役員である伊藤、芝川、丹治の座談会です。ソーシャルアプリやゲーム開発をしていた創業時からイラスト事業開始するまでの道のりを伺いました。

 

――2021年6月14日でMUGENUPが創業10周年を迎えたということで、役員のみなさんと一緒にこれまでの歩みを振り返りながら、改めてMUGENUPがどのようなビジョンを持った企業なのかを伺っていきたいと思います。まずはみなさんの自己紹介を兼ねて、それぞれ会社に参加した経緯から教えていただけますか?

 

伊藤勝悟(以下、伊藤):代表取締役の伊藤です。元々は大学生の頃にMUGENUPの前の代表だった一岡からエンジニアとして入って欲しいと言われて、創業メンバーとして会社に加わりました。2015年に代表を交代して現在に至ります。

 

芝川善行(以下、芝川):COOの芝川です。元々、三井住友銀行で法人営業をしていたんですけれど、その時の担当エリアにMUGENUPのオフィスがありました。銀行で同期だった一岡の様子を見がてら遊びに行ったら手伝ってほしいと言われて、2011年の12月頃にジョインしました。

 

当初は自分で独立・起業したいと思っていたので、少しお手伝いをするだけのつもりだったのですが、意外と忙しくて。結局そのまま10年働いています(笑)。

 

丹治 太(以下、丹治):CFOの丹治です。もともと監査法人で働いていたのですが、週に1日2日手伝いに来ていたところ、前任のCFOが会社を離れるということで2013年1月に入社して以来、MUGENUPのバックオフィス全般を担当して現在に至ります。

 

――伊藤さんは創業メンバーということですが、MUGENUPの創業当時はどのような感じだったのでしょうか。

 

伊藤:私も含めて全員が22、23歳でした。当時はベンチャーブームみたいなこともあって「会社やろうぜ」くらいの感じで創業したので、最初は何の事業をやるか決めるところからスタートしました。

 

最初に作ったのが「ミナオメ!」という、誰かにプレゼントを贈るためにユーザーがみんなでお金を出し合ってより高価な物を贈れるようにしようという、クラウドファンディングのようなサービスでした。

 

いくつかのビジネスコンテストで受賞したりする中で、VC(ベンチャーキャピタル)の方からも面白いサービスだと仰っていただいたんですが、事業としては伸びるものではなかったんです。

ソーシャルギフトサービス ミナオメ

――現在のMUGENUPのイメージとはまったく異なる事業からスタートしたんですね。

 

伊藤:企業としてはビジネスでお金を稼がないといけないので、そのために何をすればいいのか考えた時に、当時ブームになっていたソーシャルゲームを作ることにしました。

 

そこでモバゲーやGREEといったプラットフォームに向けてゲームの開発に取り組んだところ、システムの開発やデザインは自分達でできたんですが、その頃に流行していたカードゲームを作るためのイラストを調達するのがすごく大変でした。

 

芝川:当時はモバゲーやGREEにゲームを出せば、誰が作っても月に数百万円は稼げるみたいなことが言われていました。

 

ソーシャルゲームもそれほど複雑なシステムを必要としなかったので、ゲームを作ったことがないWebのシステム会社がどんどん参入してくるような状況でしたね。

 

――その当時のMUGENUPはどれくらいの規模だったんですか?

 

伊藤:まだぜんぜん人は増えていなくて、創業メンバーに芝川を加えた4人でした。私がエンジニアとしてコードを書いて、もう1人の創業メンバーの脇(恭介)がデザインをして。

 

イラスト集めで外部の協力者はいましたけれど、それくらいの規模感ですね。少人数で作って、当たればめっけものみたいな。

 

丹治:当時は本当にそんな感じでしたね。あまり手間をかけずに、1か月で数百万円くらい稼げればOKみたいな会社が沢山あったんじゃないかと。

 

――そこから、現在のMUGENUPの中核となっているイラスト制作事業をスタートすることになったのはどのような経緯があったのですか?

 

伊藤:VCの方と話をしてみると、どこの会社もイラストを描ける人材を集めるのが大変だという同じ悩みを抱えていたんです。

 

そこで「ゴールドラッシュの時に金を掘るのではなく、金を掘る道具を売る」みたいなイメージに事業方針を転換し、2012年の初めにイラストが欲しい会社にイラストを提供するビジネスを立ち上げたところ、それが成長して事業の柱になっていきました。

 

芝川:どこの会社もイラスト集めに困っていて、pixivやWebサイトで絵を描ける人を探しては声をかけていたんですけれど、発注する側も素人同然だったので至る所で問題が起きていました。

 

それこそ、プロとして活動しているイラストレーターのSNSのプロフィールに「ソーシャルゲームの仕事は受けません」みたいなことが書かれてしまうような時代だったので、まずはこの状況を解決したほうがいいよねと考えて事業をシフトした感じです。

 

――そこからいわゆるクラウドソーシング的な事業がスタートしたんですね。当初はどのような形でクリエイターを集めたのでしょうか。

 

伊藤:2012年に入って私と脇がゲームを開発している傍らでイラスト制作事業をスタートし始めていて、芝川が1人でクライアント営業と、クリエイターを見つけて描いてもらうためのフローを作る作業をしていましたね。

 

芝川:いざ事業として始めてみると、登録ページを作ったもののなかなか人が集まらなくて、東京近郊の美大の近くにバイト募集のビラを撒きに行きました。

 

ようやく登録者数が200人くらいになったところで「沢山クリエイターがいます」と営業をして、発注をいただいたのはいいけれども事故って怒られるということが何度もありましたね(笑)。

 

丹治:他の会社も血眼になってイラストレーターを探していたので、描ける人は既に忙しくて無理だったり、ソーシャルゲームはやりませんという人ばかりだったので、とりあえず絵が描けそうな美大生から探していたんですけれど、結果的にそれが一番効率がよかったんですね。

 

ゲームの絵は描いたことがないけれどやってみます、みたいな学生さんに描いてもらったら意外とよいものができて、クライアントのウケもよかったんです。

 

それで友達をどんどん連れてきてもらって、その人達のポートフォリオをもとに営業して仕事を受注することを繰り返しながら顧客を増やしていきました。

 

芝川:コンシューマーで開発している大手のゲーム会社とは全くお付き合いがありませんでしたが、ソーシャルゲームに参入する新しい会社がどんどん出てきてイラストを欲しがっていた時期だったので、本当にタイミングが良かったんです。

 

今思えばクオリティもギリギリのものがいっぱいで、案件をこなしながら徐々に育成もしていくみたいな感じでしたね。

イラスト事業開始

――クリエイターを集めて仕事を回していくというのは、それまでのMUGENUPがやってきた事とは全く異なる事業内容なので、大変なことも多かったのでは?

 

芝川:創業メンバーの誰一人、絵を描けませんし、僕もこの会社で初めてソーシャルゲームに触れたぐらいで、アニメやゲームに深い造詣があった訳ではなかったですからね。

 

でも、逆にそういうメンバーだからこそ「イラストを分業で描いたほうが生産性があがるよね」みたいな、イラストレーターからすると首を傾げそうな発想ができたのかもしれません。

 

――その当時の「ジャンプ」の人気マンガ『バクマン。』でも、ネットの集合知でマンガを描くキャラクターが主人公達に打ち負かされる展開がありましたが、クリエイティブとDXはどこか相容れない印象で見られてもいました。

 

芝川:確かに匿名掲示板やSNSでも「なんだこのやり方は」と批判されていましたけれど、プロとして一人でやっていくのは難しくてもある程度は描けるというような方からは「MUGENUPなら絵で稼げる」みたいな好意的な意見もあって、賛否両論でした。

 

ただ、自分達としてはとにかくそうしないと生産量が増やせなかったんです。

 

上手い人が1人いても描ける量には限界があるので、工程を細分化して、その方には初めのポーズだけ描いてもらい、あとはそれなりに描ける人が作業すればいいよねという感じで、とにかく生産効率を上げて大量にあるクライアントのニーズに応えるために必死でした。

 

――当時のカードゲームだと、レアカードは有名イラストレーターでコモンは無名のクリエイターみたいに、レアリティによってアサインするクリエイターを変えていたタイトルが多くみられましたね。

 

芝川:最近のスマホゲームではテイストや世界観を統一する作品が増えて、コンシューマーに近づいているのですが、初期のカードゲームはいろいろな絵柄があってもよかったので、イラストの監修コストもそれほど高くなかったんですよ。

 

レアリティの低いものを大量に受注することもできましたし、そういう時代と事業内容が上手くハマっていた感じはありましたね。

 

――この事業はいけるぞ、みたいな手応えを感じた瞬間はありましたか?

 

芝川:実はそれがずっと無いままなんですよ(笑)。初めた頃は社内の人数を少なくして、クリエイターの登録者数を増やしていけば売り上げが伸びるよねと思っていたんですけれど、モバイルゲームが進化するスピードが予想以上に速く、求められるクオリティもどんどん高くなっていったので、外部のクリエイターからの仕上がりをチェックしてテイストを統一する部分での業務量がかなり多くなってしまいました。

 

クライアントに求められるクオリティに応えるためには、外部のクリエイターよりも社内のディレクターを増やさないといけないという事態になったんです。

 

丹治:それくらいのタイミングで、似たような事業をやっていた会社の多くが撤退していきました。

 

――単純にイラストレーターの頭数だけ揃えればよいのではなくて、進行管理やクオリティコントロールの部分の重要性が増したんですね。

 

芝川:例えば、この線はこの太さでこういう塗り方をしてくださいみたいな資料を作るなど、テイストを統一するためのレギュレーションを固める作業とかがすごく増えました。

 

『進撃のバハムート』がクオリティを大きく引き上げたと思っているんですけれど、ひとつヒットタイトルが出ると、業界全体がいっきにその方向に引っ張られるという構造があるので……。

 

――仕組み上、クラウドソーシングで絵柄やクオリティを統一するのはかなり困難なことですよね。

 

芝川:社内の監督業務を増員すれば対応はできますが、それをやるとかなり労働集約型の事業になってしまうので、それはどうなんだという議論は常にありました。

 

それでも他にやれることがなかったので止まることはできず、とにかく規模を拡大していこうという意思決定の下、他社が踏み切れないアクセルを踏み込んでいった結果、高いクオリティでもある程度の物量を担保できるようになったことで、クライアントの信頼度も上がって受注が増えるようになったというのがここ数年です。

エア・エイジ

▲MUGENUPが開発した『エアエイジ』。わずか2ヶ月でサービス終了した。

 

――実際にクオリティを担保するために、どのような取り組みを行ってきたのでしょうか。

 

芝川:当初はAD(アートディレクター)と営業だけみたいな体制だったので、ADがクリエイターのアサインや進行管理までやっていたんです。そうするとAD本来の仕事であるイラストの監督業務に振り分ける時間が減ってしまうのと、そもそも管理が得意ではないADもいたので、進行管理のバイトを大量に雇い、ADには絵を見ることに専念してもらう体制にしました。

 

――ADが絵のクオリティに専念できる分、多くのクリエイターを見ることができる様になったわけですね。

 

芝川:次に問題になったのが、上がってきたイラストを修正する必要がある時に、外部のクリエイターにリテイクを出していると、そこでまたADの工数が上がってしまうことでした。外部のクリエイターは副業の方も多く、必ずしもフルタイムでイラストを制作しているわけではないので、すぐリテイク作業をしてもらえるとは限らないんですよね。

 

そのやりとりで2営業日ほどロスすることもあるのでADが自分で修正したりしていたんですけれど、そういう作業を社内で巻き取るためのチームを作りました。

 

――ADをサポートするために、社内にイラストレーターを雇ったということでしょうか。

 

芝川:インターンの様な形で集めた美大生をADとペアにして、外部のクリエイターから上がってきたイラストをADが見てリテイクがあったらすぐに社内で修正して納品できるような体制にしました。現在「ペア制度」と呼んでいる仕組みで、対応力が高く融通の利くイラストレーターが常に社内にいるという感じですね。

 

――外部のクリエイターにはリテイクを戻さないんですか?

 

芝川:クライアントの担当者の中には、あまり絵に詳しくない方も少なくないので、本来はラフの段階で検討しないといけない、ポーズが変わるような修正の依頼があったりもするんですよ。

 

それを外部のクリエイターに戻すと追加作業として費用が掛かったり、「MUGENUPが無理難題を言ってきた」みたいに思われてしまうのがブランディング的にも良くないので内部で処理することがありました。

 

丹治:そもそもクライアントからの修正内容が、外部のクリエイターさんでは技術的に対応できないものだったりして、結果的に社内の人間で巻き取るということも少なくありませんでしたね。

 

――こうやってお話を伺うと、「ネットで仕事と作業者をマッチングする」ような一般的なクラウドソーシングのイメージとは異なって、かなりイラスト制作に特化された体制ができあがっている印象です。

 

伊藤:はじめの内はクライアントも「何でもいいからイラストが欲しい」みたいな状況だったので、MUGENUPにはこういうシステムがあって、これだけのクリエイターがいますよということが売りになって発注を得ることができました。

 

しかし業界の成長が著しく、あっという間に求められるクオリティもアップして「いいものをちゃんと上げられるかどうか」という勝負になってきたので、それに合わせていった結果が現在のイラスト制作事業の形ですね。

 

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取材・構成:平岩真輔(Digitalpaint.jp)