コトブキヤ&悪役結社ヴァリアール&MUGENUPが語りつくすVR用3Dモデル・シガラキの魅力(前編)
2022.06.17
ホビーで有名なコトブキヤからは、フィギュアやプラモデルに加えて、VRChatなどで利用可能な可愛い3Dアバターもラインナップされています。
インタビューの後編では、MUGENUPが担当した2Dイラストや3Dモデルの制作、文藝イシュタルさんによるセットアップ作業のお話を通じて、最終的にアバターが完成までの流れをご紹介します。
また、6月16日(木)から始まったシガラキ購入者向けキャンペーンについてもご紹介! 可愛さとカッコよさを兼ね備えたシガラキがあなたのVR・3D体験の第一歩になるかもしれません!
▼目次
人のつながりから技術やトレンドを学び、シガラキをセットアップ
『アバター改変コンテスト 「シガラキコレクション」』コンテスト開催!
――インタビュー前編ではコトブキヤさんによる新アバター用3Dデータ「シガラキ」のコンセプトが決まるまでのお話を伺いました。後編からはコンセプト決定後の実際のデータ制作について伺いたいと思います。
飯嶋:
はい。「店員ちゃん」や「サバンナストリート」の制作でMUGENUPさんとご一緒してきた実績があったため、シガラキでも引き続きご依頼いたしました。
今回は2Dイラスト、具体的にはキャラクターのキービジュアルや、3D制作用の三面図や詳細図、アバターの表情用テクスチャなどの制作をお願いしております。2Dと3Dを一括で対応可能なのがMUGENUPさんの強みですね。
――アバター用の2Dビジュアルを制作するにあたって、難しい点などはありますか?
木下:
いくらイラストとして出来のいい絵でも、3Dモデルに起こしにくい絵になっているとその後の作業が大変です。
MUGENUPではその点でノウハウがありますし、2Dの作成中も自分たち3D側の担当者が3D化という観点から監修を行っているので、2Dから3Dへの移行作業はスムーズだったかなと思います。
飯嶋:
シガラキのコンセプトに込められたヴァリアールさんの想いが、制作を進めていく過程でどうしても薄れてしまう、ということは否めませんでした。
そのため、上がってきた2Dイラストを見て「このままではヴァリアールさんにお見せできないぞ」と判断して私の方で多少修正したこともありました。
――それはたとえばどういうことでしょう。悪っぽい要素が薄れているとか?
エーデル大首領:
まさにその通りだ。まず、以下に示す3つのデザイン案イラストが我々に提示された。如何だろうか?どれも優れたデザインではあるのだが、「悪の組織との共同開発アバター」という表現には違和感があるものだと思う。
△MUGENUPによるシガラキの初期デザイン3案。左のデザイン案が採用されることに。
飯嶋:
コトブキヤの社内の意見では、この右の3を推す声が多かったですね。しかしヴァリアールさんにそれをお伝えしたら「かわいいのをお出しされても困ります」と(笑)。
木下:
僕も3かなと思ってました(笑)。
エーデル大首領:
フン、コトブキヤ社が単体で展開するアバター開発企画であれば、その第3案でも全く問題なかっただろう。
しかし我らヴァリアールの名を添えて公開される以上は、受け入れ難いものであった。前にも言及したが、「悪の組織との共同開発アバター」という字面から期待されるイメージを裏切る訳にはいかぬからな。
ウサガエルス:
ヴァリアールの側でも数人で集まってあれこれ議論をしたッス。
部分部分では「こっちがいいな」というのもあったッスけど、総合的に見て一番しっくりきたのは左の1案だったッスね。
――悪の評価ポイントはどこだったんでしょう?
ウサガエルス:
一番はやっぱりパッと見の表情ッス。悪には笑顔よりも反抗的な感じの方が合ってるッスよね。左の1案はそこが良かったッス。
ただ、それだけで判断してもよくないので、1案の表情を他のボディに組み合わせて検討したりもしたッスけど、それだと2案や3案は服がかしこまってる感じがしたんスよねぇ。
――確かに、2案の襟元とか手首の裾のところとか、キレイめですね。
エーデル大首領:
既にこの段階で、「シガラキはVR世界の様々な地形を踏破し、利用価値のあるオブジェクトを捜索・回収する役割を持つ」というベース設定が考案されていた。
第2案・第3案のデザインには清潔な都会や室内で活動するアンドロイド的な雰囲気が強く、野山を力強く駆け巡るようなイメージが不足していた点が印象の差を決定付けたように思う。
△デザイン案を洗練させ、彩色を加えたもの。最終版と異なり赤と白が基調になっている。
飯嶋:
こちらは先ほどの1案をブラッシュアップし、着色したものになります。ヴァリアールさんは数十人規模で議論した結果の意見をいただけるので大変有り難かったです。ポリシーがある方々なので絶対にコンセプトがズレませんから、いただいた意見はほぼ全部反映させていただきました。
――ここではどういったフィードバックをされたんですか?
エーデル大首領:
赤と白を基調としたボディ・カラーが、悪役というよりはヒロイックな印象を与えるとの指摘が多く挙げられた。不気味なイメージのタヌキ面ともちぐはぐな感があるだろう。白色の部分を総じて黒に変更してくれとの要望を送らせて頂いた。
――やっぱり悪といえば黒ですよね。
エーデル大首領:
そうだな。ただし、製品版ではカラーリングを自在に変えられるため、ユーザーの好みでこういったヒロイックなイメージにすることもできる。我々ヴァリアールのコンセプトやイメージにとらわれず、自分らしくカスタマイズをして楽しむのもいいだろう。
――こうして出来上がった2Dビジュアルを元に3Dデータを作成していくわけですが、その点で苦慮されたことはありますか?
飯嶋:
同じ3Dモデルといっても、ゲーム用とアバター用とでは最適な作り方が微妙に異なります。その点でもMUGENUPさんには既存シリーズでのノウハウが溜まっていますので、安心してお願いすることができました。
――シガラキのコンセプトはこれまでと大きく異なりますが、3Dデータを制作する上で木下さんはそれについてどう思われました?
木下:
毎回同じようなものを作るよりガラッと路線が変わる方が好きなので、コンセプトが変わったことは全然問題ありません。むしろ面白そうだと思って前向きに取り組めました。
ただ、シガラキはユーザーがカスタマイズできることが特徴になっているため、ユーザーさんがいじりやすいように設計する必要があります。その点が少し特殊でしたね。
――それは具体的にはどういうことでしょう?
木下:
たとえばゲーム用の3Dモデルであれば、いろんな制約や条件から、ゲーム上で動かすデータの仕様は最初に決まっています。
制作作業としてはゴールが最初に決まっており、そのゴールに向かってまっすぐ進むためにはどうすれば良いかを重視して、なるべく効率的に制作していきます。
一方でシガラキのモデルは、一度完成して終わりではありません。そこを手にしたユーザーさんが、自身のアバターとして使いやすいかどうか。カスタマイズして改造しやすいかどうか。ゲームにはないユーザー体験が重要になります。
作り終わったらそこでゴールなのではなく、ユーザーさんにとって魅力的なスタートになるためにはどう作るべきか? という点を常に意識しました。
飯嶋:
その意味では、VRという世界自体が今なお進化し続けている最中ですから、3Dアバターについてもどういった作り方が最善なのかを探し、知恵を寄せ合ってアップデートし続けているようなイメージでしたね。
△「サバンナストリート」のイリオをカスタマイズしたMUGENUP木下(左)と、監督ちゃんをカスタマイズした文藝イシュタル岩田さん(右)。
――3Dモデルをアバターとして動くものにするためのセットアップを担当されたのが文藝イシュタルさんですが、どういった経緯で参加されたんでしょうか?
飯嶋:
文藝イシュタルさんは、VR世界でのアバターニーズに関するマーケティングアドバイザーとして、2021年頃から一緒にお取り組みさせていただいています。
サバンナストリートの時に、セットアップをお願いする予定だった方が急遽NGになってしまい、代わりのクリエイターを探していたところ、イシュタルさんでできるということをいただき、実際にお願いみたところ、クオリティがとても素晴らしかった実績があります。
その実績から、シガラキでもイシュタル様を中心にチームを組んでいただき、Studio Ishtar としてご対応いただくことになりました。
――文藝イシュタルさんは普段は書店を経営されているそうですが、どうして3DCGのセットアップに関わられたのですか。
岩田:
古来より、書籍は知の集積です。この世界のありとあらゆる知識や情報が集まるのが本ですから、書店を経営している以上、最低限その知識は持っています。
文藝を冠していながら3Dを取り扱うことを不思議に思われる方もいますが、書籍を取り扱うこと自体が、世界の様々な事象を認識し、人に伝え、広めていくことなんですね。
私は書籍イベントを企画することや、今回のセットアップまで、誰かに何かを頼まれたら、それに応えたいと思ってしまう性がありまして、今回コトブキヤ様からご相談をいただいたことにもお応えしたいと思いました。
今や、VRの世界や、3DCGの世界も、この世界を構成する一側面であり、私たちの生活に浸透しています。技術を持つ方々とのコミュニケーションや、必要とされる方にお繋ぎすることも、例えば何らかの書籍をお探しの方に書籍をご紹介することと同じことだと思っています。
そういった自然な思考で、関わらせていただきました。
飯嶋:
現職エンジニアの方など非常に強力な方たちを集めチームを組織できるのは、やはり岩田様の人望あってこそだと思います。
岩田:
VRの世界に入っていくためには自分自身で3DCGのセットアップをする必要があります。
自分も多くの友人や仲間たちから手を貸してもらい、VRやXR、3Dアバターに関する技術やトレンドを学んできました。
その時、力を貸してくれた友人たちが、特別にシガラキのセットアップにも協力してくれました。
――今回の作業で特に大変だったのはどういった点でしょう?
岩田:
セットアップとなると、本来であれば早い段階で仕様書から実装の可否など確認しながら設計するものです。
しかし今回は急な対応だったため、開発スケジュールが大変でした。みなさん、本当に素晴らしく尽力してくれました。
――シガラキ特有の開発の難しさはどのような点にありましたか?
岩田:
この子は設定上のギミックがモリモリですので、その分バグ(不整合)がたくさん出るんですよね。何かを立てれば何かは立たずということばかりです。
それから、アバターというのは実際に人が着用した際にギミックが動作するよう設定しなければならないのですが、データとして問題がないように見えても実際に使ってみると着用感などで問題が出ることもありますし、使っている自分からは動作しているギミックも、他の人には見えない、もしくは遅れて表示されたり動作しなかったりするものもあります。何重にもチェックして開発を行いました。
飯嶋:
それだけ配慮いただいたからこそ、仕上がったデータを検品したときに、驚くほど完成度が高いんです。初稿で素晴らしいクオリティに仕上げてくださって本当に助かりました。
岩田:
マスクを着脱するギミックもかなり細かく設定していますし、爪が飛び出したりするなど、様々なギミックをアニメーション付きで実装しています。お客様に楽しんでもらえるアバターになっていると思います。
ウサガエルス:
はじめてモデルを見せてもらった時には、「イラストのまんまじゃん!すげー!」と盛り上がったッス。ギミックの動きや質感もいい感じで大はしゃぎだったッスね。
エーデル大首領:
シガラキに多数搭載されたギミックの面白さは、やはり自ら手に取ってこそ体感できるものだろう。我々ヴァリアールが用意したVRChat内ワールド「シガラキ秘密工場」に試着可能なシガラキを設置させて頂いているので、是非一度試してくれたまえ。
△インタビューの参加者全員で「ヴァリアライド」に乗り込む。この後、大迫力のVRライドを体験!
――シガラキの発売に伴い、コンテスト企画が始まると伺っています。それはどのような企画なのでしょう?
飯嶋:
『シガラキコレクション』というコンテスト企画で、シガラキのアバター用3Dデータを使ってカッコイイ画像を作成してツイッターに投稿してください、というものです。
ぜひ他の3Dデータと組み合わせて自分だけの改造シガラキを作り、いい画像を作ってご応募いただけたらと思います。まさに模型コンペのようなイメージです。
――本コンペはどんな方に参加してもらいたいですか?
飯嶋:
シガラキの販売データにはfbx形式の3Dの生データが入っていますので、それを扱える方であればどなたでも参加していただけると思います。
最近はフリーのCGツールであるblenderなどで3DCGを楽しんでいる方も増えていますから、広く参加していただきたいですね。
0から3Dモデリングをする必要はなく、既存のアセットを組み合わせるだけでも作品は作れます。それこそプラモデルを組み替えて遊ぶように作品を作れますので、3DCG初心者という方もご参加いただけると思っています。
ヴァリアールさんに、シガラキを改造するための専用アセットを制作いただいているほか、コンテストに安心してご利用いただけるようクリエイターに許諾いただいたアセットがございますので、これらを活用してチャレンジしてみてください。
――今回のコンペでは各賞を設けているそうですが、それぞれどういった賞になるんでしょうか?
飯嶋:
コトブキヤ賞では「プラモデル的な遊び方」という観点で選考をさせていただきます。武器や武装を盛りつけたり、カラーリングを変えたり、シガラキをよりかっこよく、より可愛く自分好みにアレンジして画像を投稿していただければと思います。
エーデル大首領:
シガラキは可愛げのある素顔と不気味な仮面という二面性を備えたアバターだが、ヴァリアール賞では後者のイメージ、「人外」「異形」としての側面を押し広げるクールな作品を評価対象とする。
ヒューマノイド体型にすら拘る必要はない。我々の想像を絶する、自由な発想を期待する。
木下:
MUGENUP賞では、カラーリングやレイアウトなどの工夫で、アート的に秀でた画像作品を評価したいと思います。
一枚絵としてキャッチーで「これは映える!」という印象の作品をぜひ作り込んで投稿してください。
飯嶋:
ぜひシガラキを手にしていただいて、アバターの魅力と可能性を広げるような作品を作っていただければと思います。
改造されたシガラキの姿を見せていただくのが今から楽しみです。入賞作品はシガラキの公式サイトに掲載される他、弊社のプラモデルや開発関係者に配布される秘密のメダル、Amazonギフト券などの副賞も用意しておりますので、ぜひ奮ってご参加ください。
△アバター改変コンテスト「シガラキコレクション」にぜひご応募ください!
――それでは最後に、「いちあっぷ」読者のみなさんへのメッセージをお願いいたします。
飯嶋:
イラストレーターの中にも背景作画やポージングを決める際の参考などに3Dを使う方が増えています。
今回のシガラキコンペを通じて3Dに触れることで表現の幅を広げることにもつながると思いますので、ぜひこの機会に楽しんでいただけたらと思います。
エーデル大首領:
自分自身を表現する、望むがままの姿を取って活動することができる――それこそがVR世界の真なる魅力。
その姿が人間の形である必要は何処にもないのだ。己の本質を見極め、己に相応しいアバターを求めてVR世界に飛び込んで欲しい。
そしてもし、望む姿が「人外」「異形」「悪」に属するものであるならば、その入り口としてシガラキと、我々悪役結社ヴァリアールが大いなる助けとなろう。我らヴァリアールが主催する諸イベントへの、諸君らの来場を楽しみにしている。以上だ。
ウサガエルス:
コンペの期間中、シガラキのための「改変アバター集会」を特別なワールドで開催するから、ぜひ参加してほしいッス。
俺達は今このVR世界をめっちゃ楽しんでるんスよ。だからみんなもシガラキコンペに参加して一緒にこの世界を楽しもうぜ!って感じッスね。
岩田:
私にとって、自分が手がけたアバターがVR内で楽しそうに駆け回っていたり、フレンドリストのアイコンなどで見かけたりすることは、この上なく嬉しいことです。
たくさんのシガラキに会えることを楽しみにしていますので、ぜひみなさんシガラキを自分なりにアレンジし、たくさん使って楽しんでください。
木下:
今回のアバターに関しても、これまでの「アバターちゃん」同様、フェイス部分はとても可愛く仕上げて作ることができました。
”可愛い”についてはとにかくこだわりをもって作っていますので、ぜひ手に取って遊んでいただけたらと思います。そしてシガラキを通じて3DCGという表現の世界に興味を持っていただけたら幸いです。
――みなさんありがとうございました!
▽前編はこちら