コンセプトアートから紐解くメカ・金属の塗り方講座
2017.01.09
ゲームや映画などで「この世界観カッコイイな〜!」と思ったことはないでしょうか? そういったフィクションの世界観を作り上げるための制作の第一歩が『コンセプトアート』です。
コンセプトアートとは世界観の雰囲気やデザインを視覚的に伝えることを目的としたイラストで、映画やゲームなどを制作する上で欠かせないものです。
本講座では、コンセプトアーティストとしても活躍しているイラストレーターの千葉伸一さんが厚塗りからオリジナルな世界感を仕上げていく作業例を紹介してくれます。これから映像作品やゲームなどのコンセプトアートの仕事をしてみたい方、趣味として描きたい方へ向けて参考になれば幸いです。
今回は、このコンセプトアートのメイキングを行います。
▼目次
コンセプトアートは説明や提案のために制作するイラストです。また、企画の方向性を決める途中段階の設計図でもあり、絵そのものを見て楽しむ通常のイラストレーションとの違いはそこにあります。
コンセプトアートの大きな役割はイメージを共有することです。企画書や会議の中で話し合われた漠然とした言葉イメージからアーティストがコンセプトアートを描くことで、携わる人達に視覚的にイメージ共有します。
架空の風景やシチュエーションなどのほかにも、作り上げていく世界の中にあるアイテム(アセットデザイン、プロップデザイン)もコンセプトアートと呼びます。
描き方はアーティスト各々で、自身の描き方をあみ出していくものですが、描き始めるきっかけとして考えて頂けると幸いです。オリジナルの世界感をデザインし表現する手法として、頭の中にあるアイデアを描いてみてください。
はじめに、今回のコンセプトアートを描く前準備としてイメージの固め方をご紹介します。
著者はいきなりデジタルでアイデアを描くことが多いのですが、それを続けると煮詰まってしまうこともあるので、時々紙にスケッチをしています。紙でアイデアを描くときはコピー用紙などに極細ペンやシャーペンで絵をどんどん描きなぐっています。
ここでは丁寧な下絵を描くのが目的ではないので短時間でラフをたくさん描いてみましょう。ある程度溜まったら、それらを並べて遠くから眺めてみてください。どれか目に留まるものがその中に一枚でもあれば、その絵のバリエーションを描いてみます。また、しばらく描いたスケッチは放置しておき、時間が経ってから見返してみると、「これ少し変えてみると使えるかもしれない」というスケッチを発見することもできます。
他にも映画を観たり、写真を撮影しに出かけたりすることもアイデアのヒントになります。写真は撮影したものを素材にすることも可能ですし、構図の勉強にもなるのでオススメです。
今回は、SFな世界観をテーマとして、中央にメインである輸送機をすえたレイアウトでラフを始めました。この輸送機は飛んでいるのか、着陸しているのかなど、シュチュエーションを考えながら、ラフを描いていきます。発着場、輸送機、建造物といったイラスト内の諸要素の位置関係を大まかに掴みます。
著者が位置関係を決めるにあたって一番気をつけていることは、奥行きを意識することです。奥行きがあることで空間が生まれ、世界観を作りやすくなるからです。その為、手前と奥側の関係を明確にしながら考えると良いでしょう。
大雑把なアイデアスケッチから、詳細を詰めていきます。
輸送機の形状アイデアと背景のアイデアを同時に進めます。輸送機は、最初はぼってりとした形状で発着場の上に停泊しているというラフから始めました。ラフ時点ではまだ詳細を描きこむことは考えずに、全体の構図を考えます。
線画だと立体の把握が難しいので、グレーの大きな筆を用いて手前と奥の位置関係を把握できるように描いています。
あくまでもラフの延長ですので、レイヤー分けもこの段階では厳密に考えずに厚塗りのように描画していきます。気に入らなかったら、塗りつぶして塗り重ねるという作業をします。
このようなイメージに決まりました。
ここまでがコンセプトアートのラフ段階です。途中でぼってりした輸送機に魅力を感じなかったので、シャープエッジな輸送機に大幅変更しました。がさがさと塗っておりますが、この絵は輸送機がメインですので、輸送機は遠景よりも少しだけディティールを細かくラフを仕上げています。ここまでがコンセプトアートのラフ段階です。
輸送機や発着場、後ろの建物といったメインモチーフのデザインを詰めていきます。
使用頻度が高いブラシの説明をします。使用するソフトはPhotoshopです。雲やフォグはよく使うブラシですので、ダウンロードするか自作するかして自分が使いやすいモノを見つけておきましょう。
私が使っているものはこちらです。下記のようにブラシのプロパティを調整することでランダムな塗りを表現できるブラシを作れます。表現に役立つ雲の密度や、ばらつき感を描くことができます。
スモークや雲、霧、スモッグのブラシは、ブラシのプロパティから「シェイプ>ジッター値」、「拡散>拡散値」などの数値を変えるとランダムな塗りへと調整可能です。新しく調整したブラシの保存はブラシプリセットから保存できます。
ブラシを準備したところで、厚塗り作業に入ります。厚塗り作業はラフでの荒い線を整える工程と並行しながら進めていきます。デッサンやパースは塗りに合わせつつ徐々に整えていきます。
時々デッサンやバランスを見るために、左右を反転させたりすることで歪んだ部分を発見できます。また、イラストを画像形式化して、フルスクリーンでモニターから離れて観るのも有効です。
空気感と奥行きの表現の為に、手前のオブジェクトほどしっかり描き込みます。手前は暗く、遠くが明るいという明暗に気をつけつつ描きましょう。また、レイヤーをおおまかに「(1) 輸送機、(2) 発着場、(3) 後ろの建物、(4)空」というように分け、フォグ(霧、スモッグ、煙)を描画したレイヤーの各レイヤーの間に挟んであげることで遠近感をより一層分かりやすく印象づけることができます。
こちらは明暗のイメージです。
最初にこのようなイメージを掴んでから始めると、その後細かな空気感に悩むことなく、効率よく作業できます。空気感、奥行き、光源などの全体の雰囲気をどれだけ早く掴んでおくかはイラスト描画の鍵となる重要な部分です。
写真を使い、その上から更に自分で塗りを重ねると比較的簡単に絵の密度を上げることができます。写真素材は自分で撮影したものか、ロイヤリティフリーの素材を使用します。今回は遠景の街並みに写真素材を追加しました。輸送機・発着場も同様に、写真素材で密度や質感を上げることが可能です。
テクスチャーはただ重ねるよりも、乗算、オーバーレイ、ハードライトなどの効果レイヤーを用いることで下地に馴染みやすく、思わぬ効果が得られることがありますので色々試してみてください。
仕上げ段階では全体を見ながら作業をしていきます。
細かいディティールを付け加えることでリアリティや存在感が増します。例えば、このイラストには金属の細かい油の汚れや、素材感、ハイライトなどを付加しています。また絵全体が寒色系だったので、光源である太陽光を暖色系の色にし、色の単調さをなくしています。ドラマチックな絵作りは、ライティングに左右されるので光源と影の関係に気をつけましょう。
メインモチーフの輸送機が描けたので、遠景を詰めていきます。
上のイラストは近景を除いた、遠景のみの状態です。
まず下地を描きます。油絵のベース下地と同じような概念で、下地は厚塗りする際に透過する下地色となります。絵の単調さを防ぐことや全体的な雰囲気、空気感をこの時点でつかむために描きます。ここではムラ感を出すために、雲のようなモノをイメージして下地を描きました。
地面やビルのシルエットを描いていきます。背景が単調にならないように、ジグザグを意識して視線誘導ができる配置にしました。
遠景のモチーフの配置を決めたら、パースガイドを使いディティールを整えていきます。
大まかにデザインのディティールを描いたら、時々パースラインを表示してパースの狂いを確認すると良いでしょう。
絵のスケール感や、密度を上げる為にランドスケープの写真をざっくりと貼りこんでみます。
写真は絵の密度を上げるのが目的ですので、そのままにせずに、上から自分のイメージした形に近づけるように、写真の上から塗り込んでください。この工程を何度か繰り返して行います。
全像が見えてきたところで、光源を入れます。全体的に寒色なので暖色の光源(オレンジ)を入れることで、絵の色の単調さをなくせます。
ビルの窓明かりがほしいので、写真素材などを使いビルの窓の明かりを追加しました。夜の高層ビルの写真などをアバウトにオーバーレイで重ねると良い感じになります。他にもビルのリフレクション(反射)を地面に付加してあげます。
これで、遠景の完成です。
遠景を描く際に気をつけることはあまり細かいところは気にせずに、全体的に作業を進めていきましょう。細かい所から描き始めてしまうと、後になって気に入らなかった場合、描き直すのをためらってしまいます。ぼんやりとした全体像を構築し、徐々に詳細を描き込んでいきましょう。
コンセプトアートは数年前まで、あまり日本国内ではあまり聞きなれない言葉だったのではないでしょうか。このコンセプトアートというのは、欧米の厚塗り文化圏の映画の発展と共に確立されたイラストレーションの形態です。近年では、映画やゲーム以外でもコンセプトを絵でプレゼンする案件はVRコンテンツの普及など等で今後広がりをみせる世界となりつつあるので、ひとつの知識・技能としてお役立てれば幸いです。
次回は、このコンセプトアートをもとにメカ・金属の描き方について掘り下げていきます。ぜひご覧ください。
デザイナー、イラストレーター。
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