音楽においては大変重要なリズムですが、絵にもこの考えを取り入れることができます。人が見て無意識的に"心地よい"と思わせる絵はリズムを秘めているのです。
一見抽象的な内容に感じられるかもしれませんが、例を挙げながら解説してきます。
<目次>
1. 基本的な考え方
2. 背景に反復を取り入れてリズムを作る
3. 人物の中に反復を作る
4. 描線そのものにリズムを出す
5. 配置そのものでリズムを出す
1. 基本的な考え方
人間の脳は規則性のある反復構造を〝美しい〝と感じるという習性があるそうです。例えば、装飾の世界ではこれを全面に出して同じパターンの繰り返しが盛んに行われています。
装飾ほど極端にはできませんが、絵にもこの反復運動を取り入れて、それに近い効果を得ることができます。
2. 背景に反復を取り入れてリズムを作る
では実際に絵作りをしてみましょう。まずは一番とっかかりやすいのが反復で背景を作ることです。例えば――
ビルの窓の規則正しい構造を利用して、繰り返しを作ってみました。人物もリズムを崩さないような位置に置いています。
これは階段の段差です。横一列に並んだ直線が絵の印象を強めています。
人物の後ろに本棚を並べてみました。これだけの数が揃うとフレームから圧力が生まれます。
街灯の光を横一列に配置しました。光源の連続配置は幻惑効果が高いので、写真でもよく使われます。
このように、反復構造を作る為の素材は何でもかまいません。 使える物はなんでも使ってみましょう。
3. 人物の中に反復を作る
背景より少し難しいですが、人物の中にリズムを作る事も出来ます。
上の絵では服のしわや腕、足、頭部への線で流れをいくつも作っています。腰の辺りから発進して足に向かって集中するように線のリズムを作っています。また、流れが滞らないようにいくつかの出口を作っています。
他にも反復を生み出し易いポイントは人体の随所にあります。例えば髪がそうです。髪の毛の線は特にリズム良く引いていきましょう。
4. 描線そのものにリズムを出す
これは最も熟練が必要となりますが、ペンを持つ手の動きそのものにリズムをもたせるというものです。出来る限り手を力ませず、滞る事無くトントントントントンと、"一定のリズムで連続して線を置く"というイメージです。
この"手の反復運動"に慣れてくると色々な物に応用できます。髪の毛やエフェクト、動物、背景の芝、畳など、モチーフは変わっても同じようなノリで描いていく事が出来ます。
5. 配置そのものでリズムを出す
モチーフの配置でリズムを生み出す方法もあります。例えば尾形光琳の杜若図では花を繰り返し画面に配置して見事なリズムを出しています。
人物を横一列に配置してみました。視線が連続ジャンプしていくような面白さがあります。配置は規則正しいのですが、人物一人一人は描き分けてあるので違いを探したいという気になってしまいます。
主役は客船ですが、周りに鳥を散らして配置する事でリズムと奥行きが出ました。
これは反復というより変則ですが、やはりリズムを生む事を狙っています。人物同士の目線で画面全体に視線が飛ぶようにしています。
以上となります。人物や物を画面に配置して心地よいと思えるように反復を意識していきましょう。視覚的リズムを作り出すには色々な方法があるので、やりやすそうなものから試してみてはどうでしょうか。
また、視覚的リズムについては浮世絵や淋派の美術、バウハウスのグラフィックデザインなども大変参考になると思うので、興味のある方はそちらをご参照下さい。
著・画 セーガン
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メーカー勤務。アニメーション、漫画、講座等の自主制作活動に日々励む。ライフワークは映像学。現在絵コンテの描き方を勉強中。