絵本『えんとつ町のプペル』制作秘話公開!〈前篇〉西野亮廣とクリエイターが語る異例づくしの絵本の裏側とは?

絵本『えんとつ町のプペル』制作秘話公開!〈前篇〉西野亮廣とクリエイターが語る異例づくしの絵本の裏側とは?

今から10年前のある日、キングコング・西野亮廣さんは、 「もう、ひな壇に出るのは辞める」と宣言し、絵を描き始めた。「芸人なのに絵本?」と批判を浴びながら、何冊かの絵本を出版した。

 

そしてこの秋、新しい絵本 『えんとつ町のプペル』を発売。「絵本なんだから一人で描け」と批判を受けながら、制作期間4年半、総勢35名のチームで完成させた。


えんとつの煙で覆われている町に住む主人公が、どんなに町の人から批判されても「煙の上には光りかがやく“ホシ”が広がる空がある」と信じぬくストーリーは、どことなく西野さんの歩んできたものとも似ている。

 

 

予約の時点で一万部が売れ、すでに増刷も決定、と快進撃を続ける『えんとつ町のプペル』。一冊の絵本を何十人ものチームで描くという前代未聞のプロジェクトを、西野さんはどう始め、どう進めたのか。メインのイラストを担当した六七質さん、進行管理やディレクションを行った株式会社MUGENUPのペラン・アントワーヌさん、島田彬さんらと、制作秘話を語っていただいた。

 

■座談会参加者

西野亮廣:プロット、絵コンテ原案、監督

六七質:メインイラストレーター(町の設定やデザイン、背景)

島田彬:アートディレクター(背景を中心とした全体ディレクション)

ペラン・アントワーヌ:制作統括

 

 

 

一人で描く絵本から、チームで作る絵本へ

西野亮廣
西野亮廣さん(以下、西野)
『えんとつ町のプペル』はもともと一人で描く作品として描き始めていたんですよ。もう4年半くらい前のことだと思うんですけど。ただ、ストーリーを作って、絵も何ページか描きはじめた段階で、このまま僕が 一人で最後までやっても、今までやってきたことと何も変わらないんじゃないの?と思ったんですよね。

それまでに何冊か出させてもらった絵本を圧倒的に超えるようなゴールには辿り着けないんじゃないか、と。それで、チームでやる、というのを思い付いたんです。
ペラン
ペラン・アントワーヌさん(以下、ペラン)
弊社の前の社長とそのタイミングでたまたま会ったんですよね。
西野亮廣
西野
はい。そもそもなんで絵本って一人で作ることになっているんだろう? と疑問に思ったんです。映画だったら、監督さんや照明さん、美術さんとかがそれぞれいて、一つの作品を作りますよね。だって、そのほうがいいものができるから。監督さんがメイクをするよりも、プロのメイクさんに頼んだほうが、映画は絶対にいいものになる。

絵を描くことだって、描くものによって違ったスキルが必要で、キャラクターは苦手だけど建物描くなら負けないよ、とかいう人はたくさんいるんですよね。だったら、空のプロフェッショナル、森のプロフェッショナル、建物のプロフェッショナル、と集まって一つのものを作りたい、と思いました。なぜ今まで誰もやらなかったかというと、絵本は市場が小さくて制作費をかけられないから、仕方なく一人でやっていたってことなんですよね。

それで、クラウドファンディングで制作資金を調達して、プロジェクトが動き始めました。

ペラン
ペラン
弊社はもともと、クリエイター同士を繋ぐ事業もしていたので、まずは、西野さんからいただいたビジュアルやストーリーに合いそうなイラストレーターさんの候補を探し出すところから始めました。
西野亮廣
西野
ペランさんにたくさん候補を見せていただいたんですけど、その時点でもう六七質さん(本作のメインイラストレーター)のイラストが一番上に置かれていましたよね(笑)
ペラン
ペラン
そうでした(笑)。弊社としてもイチオシでした。
西野亮廣
西野
実際、確かに候補の中で圧倒的だったんですよ。『えんとつ町のプペル』の町並みは、煙突があって、配管があって、日本の建物が建っていて、というイメージだったのですが、六七質さんのイラストがもうそのまんまで。
六七質
六七質さん(以下、六七質)
なんか……最初にお話いただいたときは、すごいこと言ってるけどこれ大丈夫かな……騙されてるんじゃないのかな……って(笑)
一同
(笑)
六七質
六七質
「にしのあきひろ」という名前を見て、え、これ、名前勝手に借りてるんじゃないかな……、とか実は思ってました(笑)

町のリアル感と、絵本ならではの嘘

――チームで作る上でどういった工夫をされたのでしょうか?

西野亮廣
西野
最初の段階で、まず地図を作りましたよね。これは六七質さんからの提案だったと思います。絵本の中には地図なんか出てこないんですけど、チームで作るとなるとクリエイターさんによって担当するページが変わってくるので、世界観の中で違和感が出ないようにしなきゃならなかったんですね。

えんとつ町はどういう地形で、なぜ煙で空が覆われているのか、とかを考えていって。煙が空に溜まっていくということは、崖に囲まれているんじゃない? とか、この地図を作ったおかげで決まったこともたくさんありました。

えんとつ町のプペル 地図設定

島田
島田彬(以下、島田)
設定で喧嘩しましたよね(笑)
ペラン
ペラン
ありましたね~!(笑)
島田
島田
この町絶対、草生えてないでしょ、とか。
ペラン
ペラン
町にあったらおかしいもの、あったほうがいいものを想像してすり合わせていって、何枚も地図を作り直しましたね。
島田
島田
最終的には、町の人たちの主食は何だろう、とか細かいところまで考えました。
ペラン
ペラン
主食は、基本は缶詰って話になったから、絵本の食卓にも缶詰が描かれているんです。

えんとつ町のプペル 食卓

島田
島田
設定と言えば、絵本の後半で、主人公が船に風船をくくりつけて空を飛ぶシーンがあるのですが、いくつ風船を使えば空を飛べるのかについても計算をしたんですよね。1本の風船にヘリウムガスがどれくらい入っていて浮力がいくらで、船の重さが何キロだから、じゃあどれだけ風船があれば理論上は浮かぶのか、という計算を。正確な数字は覚えていないのですが、確か全部で3万6000個くらいだったと思います。

風船

 

西野亮廣
西野
まあ、実験をしたわけではないので、実際に浮くかはわからないんですけどね。その風船の船で空を飛んで、雲を抜けて空一面の星を見るシーンがあるんですけど、ここ、僕がコンテを描いたときは、星空の下に広がる雲は、水平にまっすぐ広がっている構図で描いていたんです。

だけど、実際にイラストとして上がってきたら、魚眼レンズで見たときのように雲が両端で大きく盛り上がる曲線で描かれていて、こっちのほうがいいじゃん!って感動したのをすごく覚えています。

えんとつ町のプペル 雲を抜けて空一面の星を見るシーン

ペラン
ペラン
ここのページは星空の中に月が浮かんでいるのですが、月じゃなくて土星とかにしようか、とか、魚眼レンズだから月も楕円形にするか、とか、色々と紆余曲折がありましたね。
西野亮廣
西野
本当は魚眼レンズだと楕円形に見えるんだと思いますが、楕円形だと月っぽくないから、円形にしてもらいました。リアル感ももちろん大事なんですが、ワクワクするための少しの嘘も僕は大事だと思うんですよね。

子どもの頃、大阪城に連れて行ってもらって写真を撮ったんですが、現像したら全然大阪城っぽくなくてがっかりしたことがあって。下から撮ったので城のてっぺんまで写ってなかったからなんですが、絵だったらそういうところに嘘もつけるんですよね。
島田
島田
船のデザインはまさにそれで、実際にはこういう船は存在しないけど、ちゃんと海に出られそうなリアル感を出そうと試行錯誤しました。一回休みを取って港町の地元に帰って船を見に行ったんですよ(笑)

えんとつ町のプペル 船の設定画

ペラン
ペラン
えっ、そうだったの⁉
島田
島田
このときはかなり行き詰ってて(笑)

 

(取材・文/朝井麻由美)

(撮影/GEKKO 福岡諒祠)

後編につづく