皆さんは絵を描くときにどのようなツールを使っていますか。
CLIP STUDIO PAINTやPhotoshop、SAIなどが定番のツールだと思います。さらにはメディバンペイントやアイビスペイントXなどフリーのペイントツールもありますね。複数のツールを使うと、それぞれの使いやすさやツールの得意不得意が分かります。だからこそ、線画はCLIP STUDIO PAINTで、彩色や仕上げはPhotoshop……というように使い分けるクリエイターも珍しくありません。
そんな中で、今回取り上げるのが3Dスカルプトツールである「ZBrush」。3D系のツールですが、制作手法や感覚は2Dクリエイターにも通じるところがあります。
そこで今回は2019年3月23日に開催された、プロの3Dクリエイターが集まるセミナーイベント「ZBrush Merge 2019」にお伺いし、2Dクリエイターにも役立つポイントを紐解きます。
▼目次
ゲーム・フィギュア業界の一流クリエイターが教える「ZBrush」の手法
フロム・ソフトウェアの世界観を支えるキャラクターアーティストの仕事
『フレームアームズ・ガール』スティレット-SESSION GO !! -フィギュア制作過程の紹介
『Monster Hunter:W』モンスターデザインにおいてのZBrush の活用法
Maarten Verhoeven: ZBrushと歩んだ十年の旅
ZBrushとは?
ZBrushはプロの世界で標準のように使われている3Dスカルプト(彫刻)ツール。『パイレーツ・オブ・カリビアン』などの有名な映画のみならず、日本のゲーム制作やキャラクターフィギュアの制作にも使われています。
3Dモデルを作るとなると、Mayaや3ds Maxといったツールを使い、ポリゴンの頂点を動かして組み上げていくイメージを持っている方もいると思いますが、ZBrushは粘土をこねるような感覚で作れる特徴があります。
ゲーム・フィギュア業界の一流クリエイターが教える「ZBrush」の手法
「ZBrush Merge 2019」というイベントは、ZBrushを開発しているPixologic社が主催する大型のプロクリエイター向けイベント。実際にZBrushを使用し、ゲーム業界やフィギュア業界の一線で活躍しているスゴ腕クリエイターが登壇しました。
それぞれのセッションを、2Dクリエイターにとって気になる視点を軸にご紹介します。
▽ZBrush Merge 2019
https://pixologic.jp/event/ZBrush -merge-2019/
フロム・ソフトウェアの世界観を支えるキャラクターアーティストの仕事
一つ目のセッションは先日発売された『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』が注目を集める株式会社フロム・ソフトウェアから藤巻氏が登壇。リードキャラクターアーティスト/テクニカルアーティストをつとめる藤巻氏は、ZBrushを用いてキャラクターの魅力を引き出す工夫について語ります。
△藤巻氏は印象に残す造形のコツとして「アウトライン」「影」「色の明暗」をキーワードとしていました。
特に印象的だったのはアウトラインの考え方。
アウトラインを決める際に以下の4点を意識しているようです。
- キャラクターの特徴を出す
- ごちゃごちゃさせすぎない
- 単調すぎる部分をつぶす
- 骨格の流れを感じるように
キャラクターの特長を出すために「アウトラインだけでも見た人に印象を与えること」を大事にしており、単調すぎる部分をつぶしていくことが重要とのこと。例えば尻尾などは単調になりやすいので、形を歪ませるといった工夫をしているそうです。
また、「似通った部分を創りすぎない」というのもポイント。2Dイラストでも強そうなモンスターを描こうと思うと、角みたいに尖ったパーツをつい盛り込みたくなりますよね。しかし、似通ったパーツが増えると単調になるため、パーツを増やし過ぎないことも意識すべきだそうです。
ごちゃごちゃさせすぎず、ディテールを間引いてアウトラインに緩急をつけるという点は、2Dイラストでも重要になると感じられます。
△影を付ける際の考え方。
作例はフロム・ソフトウェアの制作物としては無関係で藤巻氏が自主的に作られたもの。
また、重要なのは「見た人が骨格の流れを感じられるようにすること」。これが見えないと生物として見えないのだそう。2Dイラストでは、1枚の構図のなかにキャラクターを収めるために、あえてデッサンを歪めたりポーズを誇張することも多いと思いますが、この骨格という視点は、2Dと3D問わずデザインを考えるにあたって忘れてはいけないポイントになりそうです。
△「印象に残す造形のコツまとめ」。
2Dイラスト同様に影や色の明暗で視線誘導する考えが重要視されている。
『フレームアームズ・ガール』スティレット-SESSION GO !! -フィギュア制作過程の紹介
△『フレームアームズ・ガール』のフィギュア制作過程。
二つ目のセッションは、株式会社壽屋から企画本部開発グループ原型チーム所属のツチヤトモミ氏が登壇。ZBrushを使ったフィギュア原型のモデリングを担当されています。本セッションでは『フレームアームズ・ガール』のフィギュア制作過程の事例をご紹介されました。
セッション内容で特に印象的だったのは「コンセプトの確認」です。
フィギュアには「キャラクターの再現度」が求められ、その再現度を高めるために肌表現や髪の動き、躍動感、衣装のシワ表現に注力されているそうです。
衣装のシワ表現を立体で表現するためには、元のイラスト1枚だけを参考にするだけでなく、同じイラストレーターの他のイラストも読み込んで、作家としてのクセや特徴を理解するところまで行われているとのこと。
△ディレクターからのフィードバックが記された資料
セッションの中ではディレクターからのフィードバックが入った資料も紹介されました。キャラクターの肉付きについても、例えばふくらはぎの造形についてはヒラメ筋の向きにまで指摘があります。また腕や足などには「関節を曲げた後の体の作り込みをしっかり」という指示が入っていました。髪についても「バラバラにしすぎず、大きな流れのラインをきれいに。※毛先の方向意識」というコメントが。これは2Dイラストでも大事な点ですよね。
躍動感を大事にするフィギュアの表現は、2Dイラストでも参考になる部分が数多くありそうです。
今回の題材として使用いたしました「フレームアームズ・ガール スティレット -SESSION GO!!-」の詳細はこちらからご覧いただけます。
https://www.kotobukiya.co.jp/product/product-0000003254/
『Monster Hunter:W』モンスターデザインにおいてのZBrush の活用法
そして3つ目のセッションでは、株式会社カプコンから尾﨑健太郎氏と為貝雅也氏。
大人気の『モンスタハンター:ワールド』を題材に、どのようにモンスターをデザインしていくのか、ステージ上で実演しながらの解説が行われました。
△モンスタハンターシリーズに登場する「ミラボレアス」のイメージ。
角など大きなパーツを置いて、それをガイドにしながら流れを意識してディテールを置いていくなど、見どころの多いセッションでしたが、お二人とも共通して熱く語っていらっしゃったのは「生物としての説得力」でした。
△亀の甲羅に刻まれている成長線。
本セミナーでは成長痕と呼ばれている。
例えば、このセッションで語られていた「成長痕」というワード。亀の甲羅を事例として、成長すると年輪のように模様が刻まれる様を成長痕としてお話されていました。
△ミラボレアスの鼻先と歯。
硬いイメージを持ち、成長痕が描かれている。
実際にモンスターをデザインされる際は、例えば小さな牙は生えてきて間もないだろうから成長痕はなく、一方で大きい牙は生えてから相応に時間も経っているだろうから溝を彫ってみたりしているそうです。
また、鱗の生え方にもこだわりがあり、実際のワニやイグアナの写真をサンプルにしながら……「口の周りはぴったりと閉じるように幾何学的な鱗が並び、顎の関節部分は動きを邪魔しないように小さな鱗が生えている。一方で、背中はいろいろ体を守るように大きくかたそうな鱗が生えている」などをお話していました。
△『モンスタハンター:ワールド』に登場する「ドドガマル」。
鱗の生え方や成長痕など、様々な生物を参考にデザインされている。
こういう実際の生物を参考にしながら、モンスターのデザインにも「そのモンスターの生物としての理屈」を考え、それにあわせてデザインしていくのが重要だそうです。
皆さんもオリジナルのモンスターデザインを考える際、「生き物としての理屈」を意識してみてはいかがでしょうか。
Maarten Verhoeven: ZBrushと歩んだ十年の旅
最後のセッションは、ベルギーから来日したフリーランスのCGアーティスト、マーティンさんのセッションです。
△マーティンさんが手がけてきた作品
フリーランスとして活躍されるマーティンさんは、映画『グレムリン』に衝撃を受けて自分でもクリーチャーを作ってみたい!と強く願ったとか。そこから美術系の大学に進学しアートを学んだものの、なかなか自分の手にしっくりくるツールがみつからない。そう思っていた時に、ZBrushに触れてみたら、これまでアートを学んできた自分のスキルにぴったりあうツールだったそうです。それ以来、ZBrushを用いて映画や玩具など、様々なジャンルで作品を発表しています。
ものすごく衝撃的だったのは、ハイクオリティな数々のオリジナルクリーチャーも、わずか1日や2日で作っているとのこと。紙のスケッチブックなどはいっさい使わず、ゼロからZBrushでスカルプトをはじめ、そのまま完成までもっていっているのだそうです。
△2019年実装されたZBrushの新機能「非写実的レンダリング(NPR)」で描かれた作品。
3Dモデルが2Dで描かれたように見える。
マーティンさんは「作品作りの途中経過は効率的であればあるほどいい。出来上がった最後のビジュアル表現こそが全て」とコメントされ、さまざまなテクニックを駆使して、ステージ上でも手際よく作品を作っていました。
2Dクリエイターへ、ZBrushの魅力とは?
3DCGというと、数字がいっぱいでとっつきづらいと思うイラストレーターも多いと思いますが、デジタルスカルプトは、絵師にとっては馴染みやすいツールなのかもしれません。
ZBrushを手掛けるPixologic社の日本マーケティングマネージャーである成川氏より、最後にコメントを頂戴いたしましたので、ご紹介させていただきます。
成川氏:
ZBrushは、イラストの力をそのまま生かせるツールです。通常3DCGというと、点と線を一つひとつ操作し、形状を作成していきます。ですが、ZBrushでは粘土を操作する感覚で制作をおこなうことができます。そのため、クリエイターのデッサン能力が直結するツールですので、2Dの画力をそのまま3Dで表現できます。イラストを描かれる絵師の皆さんが3Dを始めてみよう……という時は、ZBrushはまさにぴったりのツールだと思います。
△新しく搭載された機能「NPR」(非写実的レンダリング)。
ZBrush内でさまざまなアートのスタイルを実現できる機能でコミック調、イラスト調、デッサン調、油絵調、そのほか様々なテイストを表現できる。
特に最新のZBrush 2019では、「NPR」(非写実的レンダリング)という機能によって、輪郭線を強調したりハーフトーンのように表現したりなど、2Dイラストっぽい仕上がりにする事が可能になりましたので、イラストレーターの皆さんとの親和性もますます高まっています。ZRemesher v3.0によって、よりメカ表現が簡単にできるようになりましたので、ぜひ一度ZBrush を触ってみてほしいですね。
セミナーの動画はこちら!
ZBrush 体験版はこちらから!