フランスの漫画で世界を目指す! 日本での逆輸入の例 -前編-
2020.08.26
こんにちは! フランスの漫画出版社Ki-oon(キューン)のキムです。これまでこちらの記事で「フランス×漫画」をテーマにコラム記事を寄稿してきました。
今回はフランスの漫画を日本で逆輸入した例を取り上げ、紹介していきます。前編でライセンスについて述べましたので、本記事である後編では日本での出版にご協力いただいた別冊少年チャンピオンの松山編集長に刊行の経緯などについてお話いただきました。
▽目次
大学時代に「編集王」(著:土田世紀)に魅了され、漫画編集者になりたい一心で出版業界に踏み込んだ松山氏。実話誌系出版社での経験を得たのち、秋田書店の現編集局長・沢氏に声をかけられ、週刊少年チャンピオンに入り、夢を叶えます。
熱血系の主人公好きの熱血系編集者として活躍している彼は、「囚人リク」や「BEASTARS」を始め、数々の人気作品を担当して来ました。2018年に週刊少年チャンピオンの兄弟雑誌・別冊少年チャンピオン(「弱虫ペダル SPARE BIKE」、「ダーウィンズゲーム」、「WORST外伝 ドクロ」……)の編集長として抜擢され、今までの経験を活かし、革新的な作品を生み出す場を設けようとしています。
フランスの出版社のオリジナル漫画を何故刊行しようと考えたのでしょうか?
▲別冊少年チャンピオン7月号に「Lost Children」を表紙に飾ってくださった松山編集長。
―― キム(以降K):海外に目を向けるようになったきっかけは何ですか?
松山編集長(以降M):知識では海外の漫画事情は知っていましたが、出張するまでは自分の中でそんなにリアルではありませんでした。2018年に編集局次長(当時)の沢さんとフランス最大の漫画祭・ジャパンエキスポに勉強しに行くことになりました。
初めての海外の漫画イベントでしたが、衝撃的でした。会場に行く電車に多くのコスプレイヤーが乗って、着いたら想像以上に人が集まり、盛り上がっていました。
頭では海外でも読んでいる人がいるのは分かってはいたのですが、目の前で見て、感動してしまいました。同じ年の11月にスペインのサロン・デル・マンガに「BEASTARS」の著者・板垣巴留先生が招待されたので担当編集者として行きましたが、サイン会の時に、若い女の子が先生と握手できる一個の列前から震えだして、目の前に立った時に感動で泣き出しました!すごく喜んでいたのが印象に残っています。
フランスとスペインで体験した出来事は自分の中で新しい価値観を生み出しました。日本には1億2千万人の人口があるので、そこでヒットしたら、作家は食べていけます。どうしても日本で編集をやっていると、そういう市場目当てに考えてきます。しかし、日本の人口も減って行きますし、日本の漫画読者も減ってくるかも知れません。国内市場が縮小して行く中で、海外でこれだけ漫画を読みたがっている人がいるとはっきりと見えてきました。
▲スペイン最大の漫画祭サロン・デル・マンガとために2018年11月にバルセローナを訪れた松山氏。
―― K:弊社との個人的な繋がりもその時に生まれましたね。
M:ジャパンエキスポのときに、キムさんもいらっしゃいましたね。流暢に日本語ができて、やたら日本の漫画に詳しいフランス人がいるなと思いました。その漫画の考察力にびっくりしましたね。
Ki-oonさんというのは市場1位ではないのですが、ものすごい漫画の目利きがうまくて、オリジナルの価値観で選んでいるという個性があるイメージがあります。日本で売れているかどうかではなくて、自分が面白いと思ってやっています。
「BEASTARS」もマンガ大賞などを受賞する以前から、Ki-oonさんが面白いと判断してフランス版を刊行してくれていたので、初めからKi-oonさんに好印象がありました。
―― K:その後、「Lost Children」に関してオファーをくださいましたが、この作品に特に興味を持ってくださった理由を教えてください。
M:まずは絵です。デビュー作と思えないくらい完成しています。キャラは特にそうです。ランの横顔がかっこ良くて、ユリの少年時代が可愛いなと思っています。かっこいいと可愛いが同時に描けているというのがすごいところです。
また、ファンタジー要素がたくさんある漫画ですが、嘘の世界を描く以上、背景や服装に説得力を持たせていかないといけません。そこには手を抜かず丁寧に描いています。自分の雑誌にこの絵が載った時に、グレードが上がると思いました。
もう一つはテーマです。ものすごく心が動きました。少年漫画で読みたいのは、スーパーマンのような完全ヒーローのかっこいい話というよりも、うまくいかない状況の中で、男の子たちが逃げたくもなるようなその現実の中で戦って、自分の未来を開いていくという物語です。自分自身が子供の頃からそういう作品に励まされてきたので、そのような漫画を載せたいという想いがありましたが、「Lost Children」はまさにそうです。主人公のユリとランは身分制や民族差別が蔓延るこの連邦王国で友達になったのに、このしょうもない理由から離れ離れにされなければいけません。大変な時代の中で、這いつくばってでも自分の運命を逃げたり、流されたりせず、向き合ってやれることをやっていくという話です。本当に気持ちいいなと思いました。
▲フランス語版は単行本のみで、連載雑誌がありません。
―― K:海外からライセンスを買うというのが日本では珍しいことですが、迷いありましたか?
M:連載開始前に契約をあまり交わさない日本の出版社とは逆で、海外出版は契約厳しいだろうなと想像していました。また、日本では関係者と文化が統一されている中で譲り合ったりしていますが、フランスだとやっていけるのかなという不安がありました。
でも、それはそっくりそのままフランスに行ったメンバーで動いたプロジェクトで、なおかつその時出会ったキムさんの案件でした。壁が高いですが、これだけ人とタイミングが寄ってきている中で、自分がやるべき仕事だと勝手に使命感が生まれました(笑)難しさは絶対にあるでしょうが、世界にものすごい多くの漫画ファンがいて、当然ながらその漫画作家もいて、キムさんのような編集者もいます。そういう人たちと組んでやってみたいなと、行ったからこそ思いました。何個も要因が重なりました。
―― K:「Lost Children」はフランスと日本の読者の読み方が多少違うかもしれません。フランスでは社会的な問題という背景が読者に重視される傾向がありますが、日本ではどう読まれると思いますか?
M:「Lost Children」より遥に平和な世界に生きていますが、肩書きで差別されたり、クラスの中に身分があったりするので、自分の境遇に置き換えて、共感することができると思います。できるように丁寧に描かれている漫画なのです。個人的な意見ですが、漫画で骨太のストーリー、例えば革命のような重いテーマは基本的に避けたほうがいいかなと思います。
最初はその辺でちょっと難しいと思いましたが、ライトの漫画を読みたい読者層だけではないでしょう。本格派という作品は今少ないので、そういう意味で個性になります。個性は逆に目立ちますし、競争相手も少ないです。最初はテーマ難しそうだなと思われるでしょうが、巻数を重ねて、キャラを見て行ったら、読者が振り返ってくれるだろうと思っています。
―― K:海外とのコラボと言えば、スペインの作家との漫画作りが始まったと伺いました。ヨーロッパのコミックを日本で紹介するEUROMANGAの創立者・フレデリック・トゥルモンドという日本在住のフランス人編集者も関わっていますね。
M:フレデリックさんはジャパンエキスポにいましたし、スペインのサロンでも現地にいました。至る所に出没します(笑)日本語が流暢で、漫画好きです。彼は日本の有名プロダクションさんから原作使用権を預かり、スペインの漫画家が描くという企画を持ち込んできてくれました。
私がキムさんを信用しているからこそ話を頂いた時に真剣に検討できたように、フレデリックさんの漫画に対する情熱、愛、誠実さにおいて尊敬に値する方なので、持ってきて頂いた企画をしっかり考えてみようと決めました。そうしたら、やる価値があると思ったので、来年に連載を開始するように動いています。
―― K:別冊少年チャンピオンはどういう雑誌にしたいですか?
M:王道は週刊少年チャンピオンに任せ、面白いことをタブーなしに、昔のルールに縛られず、革新的にやっていきたいと考えています。売れることを前提とした変な雑誌にして行きたい(笑)
ちょっと異色の作品でも荒削りの才能がある作品、または十人中九人はダメでも一人が猛烈にハマってくれるようなものなど、そういう実験的なことはして行きたいです。その一環として、海外の作家さんと一緒にやったり、ライセンスを買ったりしました。面白い作家さんが海外からきてくれた場合は垣根もなく真剣にやれるかどうかの話をして行きたいです。
▲別冊少年チャンピオン編集部は週刊少年チャンピオン編集部と同じ部屋に設置されている。
―― K:日本の漫画市場は今後どう変わっていくと思いますか?
M:それは読めませんが、逆にどんな時代が来ようとも面白い漫画は絶対的に支持されます。それだけは変わらないと思っています。出版不況だとは10年前から言われていますが、「鬼滅の刃」のように昔の記録を抜いてくる現代の漫画が出てくるわけじゃないですか。下手に次の時代を読むよりかは、面白く、どの時代でも読める漫画を作って行きたいとしか考えていないです。
日本と海外。その区別は漫画の世界においてはもはや無意味になりつつあります。普遍的な話、誰でも共感できる感情はそこに描かれているからです。
その漫画の力のおかげで、弊社は今後も国境をまたぎ、日本からフランス市場をスタート点とした漫画を作り、そして秋田書店の方々を始め、多くのパートナーの力を借りて、更に全世界に広めて行くよう、最善を尽くして行きます。
松山編集長が試みている革新的な動きも次の時代を作っています。何があっても、人間が感動を求める限り、漫画の世界が盛り上がっていくに違いありません!
Ki-oon公式ウェブサイト(フランス語のみ) : http://www.ki-oon.com/
東京オフィス公式TWITTERアカウント(日本語):https://twitter.com/
東京オフィス連絡先:
代表名:キム・ブデン
住所:c/oフランス商工会議所
〒103-0023 東京都中央区日本橋本町2-2-2 日本橋本町YSビル、2階
メール:mochikomi@ki-oon.com
電話番号:03-4500-6668
Ki-oonの東京オフィス代表キム・ブデンについて:講談社の国際事業局で四年半働いた後一旦帰国、三年半フランスの漫画出版社・PIKAの編集長として勤め、2015年の10月からKi-oonの在日オフィス代表として日本に戻り、現在に至る。
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