マンガ!コマ割り入門① ~コマ割りの約束と基本形~
2019.04.02
私達は雑誌やWEBで連載されているマンガ作品を数分で読んでしまいます。1ページ単位であればものの数秒でページをめくることでしょう。
では実際のマンガ原稿の制作時間はどの位かかるかご存知ですか?
一般的に一人でマンガ原稿を1ページ完成させるには丸一日(睡眠・食事・休憩を除く12~18h程度)程度かかると言われます。当然、このペースだと週刊マンガ誌などで20ページ近く連載している作家さんは間に合うはずもありません。
今回はマンガの原稿用紙の見方と作画する際の注意点、プロのマンガ制作現場が実践する「もっとも効率的なマンガ原稿の制作手順」をご紹介します。
▼目次
市販の原稿用紙やCLIP STUDIO PAINTなどの原稿フォーマットにはすでに水色やグレーで3つの罫線が入っています。まずはその用途を頭に入れましょう。
原稿を描く際の基本スペースを「内枠」と言います。コマの4辺を囲んで描くスペースを指します。
絵が「内枠」に収まらないで本いっぱいに描き込んであるコマを「断ち切り」と言います。この「外枠」は製本されるいっぱいのスペースだと考えて下さい。
「断ち切り枠」は製本される部分より余分に描くスペースです。
製本スペースは印刷所や出版社によって多少誤差が出る場合があります。「断ち切り」をして描きたいコマはここまで作画するよう注意して下さい。
日本のマンガは「奇数ページが左」「偶数ページが右」になります。
そして「断ち切り」をする際、3つの罫線以外にもうひとつ注意したい点が「ノド」。「ノド」は本が閉じている内側のスペースを指します。本の閉じ方によって見えるスペースが変わってくるので、出来るだけノド側は断ち切らないのがポイント!
「断ち切り」をする場合でもフキダシはできるだけ内枠の近い場所に描くように気をつけましょう!
下の左右の図案は同じストーリー展開で右ページを意識して作画しています。
どちらがより正しい図案でしょうか?
正解は右です。右の図案はフキダシや描き文字の位置、ストーリー展開に細心の注意を払って配置した図になります。
一番良くないのが4コマ目のフキダシの位置です。また、3コマ目も断ち切りいっぱいまでフキダシが入っていて少し見づらくなっています。2コマ目のキャラの目線や1コマ目のキャラの向き、描き文字の位置も考えたいものです。
4コマ目は断ち切りをやめ、フキダシの位置を修正しました。オチのコマなので「時間を止める効果」を演出して体の向きを変えています。
2・3コマ目は流れを考え、目線や体の向きを変えフキダシは内枠内に。1コマ目のキャラの向き、頭の上のスペース、描き文字の位置を修正しました。
初心者に陥りがちなのが「キャラの配置や導線が不適切である!」という点です。
物語の流れに合わせて最適なカメラワーク・構図を熟考したいものです。また「断ち切り」をする際にはノド側やフキダシの位置に細心の注意を払いましょう!
では、プロのマンガ制作現場が実践する「もっとも効率的なマンガ原稿の制作手順」をご紹介しましょう!
今回は例題用に制作した「ナース戦士 Wエンジェル」(4ページマンガ タイトル1P・本文3P)の本文3P分の作例をまとめてお見せいたします。
まずは「ネーム(マンガの設計図)」です。
ネームの描き方に関しては≪マンガ!コマ割り入門①②≫≪プロも実践!マンガ制作手順≫にて解説していますのでご参照下さい。
ネームを見ながら「枠線」を鉛筆を使って定規で引きます。その後「フキダシ」を描きましょう!
人物や背景、描き文字のアタリを取ります。一般的に水色のシャーペンを使って描く場合が多いでしょう。
デジタルの場合でもアタリのレイヤーは水色にする場合がほとんどです。これは水色で描いたものは印刷に出にくいからです。
※「アタリ」とは大まかに描くことを言います。「ラフ」という言い方をする場合もあります。
人物や描き文字を黒のシャーペンや鉛筆で描き、ペン入れする箇所を明確にします。
フキダシをペン入れします。その後、描き文字が人物の手前にある場合は先に描き、人物のペン入れを続いて行います。
※アシスタントを使っている現場はここまでが作家の作業となります。
※アシスタントを使っている現場はここからがアシスタント作業です。
「枠線」をペン入れします。初心者の方はもっと早い工程でペン入れをする方が多いと思いますが、プロの現場ではここで行います。デジタル工程だとここはすでに作家側で終えています。
背景の下描きをします。まずは形を明確にして、定規を入れる箇所はペン入れしやすいように線を入れましょう!
背景のペン入れをします。
消しゴムをかけて、アタリを消します。
黒く塗る箇所を潰します。髪のテカリなどのツヤベタのある処理は先に施します。
※業界では黒く塗りつぶすことを「ベタ」と言います。
はみ出ている箇所や消しゴムをかけても汚れている部分を修正液で消します。
グレーで色を付けたい部分や模様を施したい部分に「スクリーントーン」というフィルム状のシートを貼ります。
フキダシの中のセリフやナレーションを鉛筆で描きます。
※セリフのことも「ネーム」と業界では言います。
※出版社にアナログ原稿を入稿、投稿・持込みをされる方はここまでの工程で終了。
鉛筆で描かれた部分にフォント化された文字を貼り付けます。現在ではアナログ原稿もデジタル化し、データ上で写植作業を行います。
※「写植」は「写真植字」の略。アナログ全盛時は印画紙に焼き付けたフォント文字を原稿に直接貼り付けていました。
※デジタル原稿で入稿される場合はここまでの工程で終了です。
「外枠」のスペースで裁断され製本化されます。
同人サイズのA4原稿用紙では裁断されるとB5の一般的な雑誌サイズの本になります。プロ・投稿サイズのB4原稿用紙では約86%縮小して裁断され、B5サイズの本となります。
では、プロの作家はこのやり方でメチャメチャ早く描き上げているのか?と聞かれると、実はそうでもないのです。
プロの作家でも一人で制作した場合、やはり丸ー日かかって1ページ程度しかアップしないでしょう。やはり、「アシスタント」というヘルプ作業をお願い出来るスタッフが必要なのです。
しかし、一人で全ての工程を行うにあたっても効率よくスピードアップする方法が実はあるのです!
それは“1~12の手順を複数ページで工程毎に行う!!”ということです。
例えば今回の作例の様に作品の本文3ページ分を制作するとします。1ページ全ての工程をこなし完成し、次のページをまた全ての工程をこなして次のページを「1~12の工程×3P」ではなく、1~12の工程を工程毎に3ページ分まとめて制作する。つまり「3P×1工程×12」としてみるのです。
プロの現場ではそれぞれの工程をアシスタントの方が分業で行っていますが、一人で原稿を制作する際も複数ページ、もしくは全ページを分業制で進めてやればよいのです!
現場経験のある方はない方に比べ、1.5~2倍近く作業スピードが速いでしょう。
ぜひ、この「工程毎に分業してマンガ原稿の制作をする」を利用して作業の効率化を図って欲しいものです。
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複数の専門学校にてマンガ・イラスト学科をプロデュース。多くのマンガ家・イラストレーターを業界に輩出している。BS11で放映された『ゼロから始めるマンガ上達塾』ではKAN塾長として出演。 著書に「マンガベーシックテクニック」「なぞって上達 マンガ 手と足の描き方」がある。