飲食の描写を学ぼう。田中将賀さんによるワークショップイベントレポート
2019.10.23
全国の総合学園ヒューマンアカデミーにて大好評開催中のイベント『<全国開催>有名イラストレーターによるライブペイント&添削会』。イラストレーターだけでなく、これまでにプロとして第一線で活躍しているクリエイターの方々にご登壇いただいた。
2019年度、最後のセミナーは『賭ケグルイ』(スクウェア・エニックス刊)の原作者である河本ほむらさんとご兄弟で『賭ケグルイ』スピンオフ小説などの著者作家である武野光さんによるワークショップイベントが開催された。
そこで今回の記事では本イベントのレポートをお届け。一流の漫画原作者が教えるシナリオ制作術とキャラクターの作り方についてお話いただいた。
■河本ほむら《プロフィール》
2014年にガンガンJOKERにて『賭ケグルイ』でデビュー。同作はシリーズ累計550万部を突破し、アニメ、映画、ゲームなど多数メディア展開。スピンオフ『賭ケグルイ双』『賭ケグルイ妄』『賭ケグルイ(仮)』など著作多数。司法試験合格の経歴をもつ。2020年4月14日からは『イブニング』にて新連載『リーガルエッグ』をスタートする。
■武野光《プロフィール》
河本ほむらの弟。2012年に就活本『凡人内定戦略』でデビュー。漫画原作、小説、実用書など著作多数。賭ケグルイシリーズでは『小説賭ケグルイ悦』『小説賭ケグルイ戯』を執筆。サラリーマンとしても働く兼業作家。
▼目次
『賭ケグルイ』原作者 河本ほむら流! シナリオとキャラクターの作り方
たくさんの漫画を読んでいると「漫画原作者」という言葉を見かけたことはないだろうか。例えば、今回のセミナーにご登壇いただいた河本ほむらさんは『賭ケグルイ』の原作を担当し、作画は尚村透さんが務めている。
このように分業して漫画を制作することは多々あり、近年のヒット作品では『ワンパンマン』(原作:ONE、漫画:村田雄介)、『Dr.STONE』(原作:稲垣理一郎、作画:Boichi)をはじめ、不朽の名作として『北斗の拳』(原作:武論尊、作画:原哲夫)や『DEATH NOTE』(原作:大場つぐみ、作画:小畑健)などがある。
そこで今回のセミナーでは、河本ほむらさんと武野光さんに、漫画原作者の仕事紹介をはじめ、漫画原作者の武器であるシナリオとキャラクターの作り方についてお話いただいた。
漫画原作者の仕事領域は上図のような範囲になっている。
プロット以降からはネーム又は脚本に分岐しているが、これは漫画原作者にはネーム原作と脚本原作の2つのタイプがいるからだ。
ネーム原作はその名の通り、漫画の制作工程における「ネームまで描く人」であり、脚本原作は「文字のみ執筆し、ネームは描かない人」である。小説家や脚本家出身の人は脚本原作が多いとのこと。
河本ほむらさんはネーム原作であり、「コマ割りなど大まかな演出を指定できるのが強み」と語る。脚本原作の場合、コマの使い方などの指定が難しい為、漫画の演出まで含めてお話を作るのに手間がかかるようだ。
「絵が描けるならまずは漫画家を目指すのをオススメします」と語る。
世の中にいる漫画原作者の中で「漫画家→漫画原作者」は比較的多くいるが、「漫画原作者→漫画家」になった例は少ないとのこと。さらに漫画原作者は絵が描ける人に比べると、場合によってはデビューのハードルが高いという。
「漫画家がデビューさせてもらう基準のひとつに、絵が上手いからというのがあります。漫画原作にはそのようなことはなく、純粋におもしろいいかどうかで判断されるのでデビューハードルが上がります。また、出版社視点として漫画原作者を使うと制作費も人的コストも高くなりやすいのでデビューまでのハードルが高くなる傾向があります。」
さらに漫画原作者の場合は作画をしていない分、漫画家と比べると1本あたりの収入が少なくなるので、漫画をヒットさせるか作品数を増やす努力が必要になるそうだ。
河本ほむらさんは「ガンガンJOKER新人漫画賞」のネーム原作部門にて奨励賞を受賞したことをきっかけに漫画原作者への道を歩むことになる。
そこで漫画原作者になって感じたメリットが3つあると語った。
「作者の立場でいえば、漫画原作者という仕事は作画コストが掛からないのが武器です。作画時間が無い為、時間的余裕が作りやすく複数連載を可能とし、多くの作品を生み出すことができます。さらに『お話のプロ』である為、漫画だけではなくゲームシナリオやアニメ原作など様々なジャンルで活動できるのもメリットです。それらを踏まえて、これまでにライトノベルや実用書、映画原案などにも携わってきました。」
漫画家になりたい人は一刻も早くデビューすることが大切だと語る。
「漫画をたくさん描くには生活資金がないといけません。生活資金が不足するとアルバイトなどをするために作品にかける時間が減って、量が描けず、必然的に漫画家になるチャンスが減っていきます。
まずは漫画の勉強も大切ですが、勉強を目的にせずに、漫画家としてデビューすることを目標に頑張りましょう。掲載されれば生活費は確保できますし、漫画は賞を取って連載してからでもたくさん学びがあるので。」
河本ほむらさんは受賞後、連載を目指して半年ぐらいネームを描いては直すを繰り返していた。その経験の中で担当編集から「めくり」や「引き」といった漫画のテクニックを教えてもらったりと漫画家として成長。その後、連載を通して多くのことを学んだそうだ。
「デビュー方法は出版社が実施している賞に応募したり、持ち込んだり、近年ではSNSに作品を投稿してスカウトされるなど様々ありますが、何でもいいです。
僕は自分がそうだったので、オススメするのは賞への投稿です。まずはたくさん描いて、たくさん投稿をして機会を増やしましょう。フィードバックが受けられます。仮に落ちた作品でも他の出版社であれば評価されることもあります。」
そして担当編集がついてからが重要だと語る。
「担当がついたら喰らいついてください。編集者は多くの漫画家を抱えているので、前向きな姿勢を示して積極的にコミュニケーションを取っていきましょう。特にレスポンスを早くするのが大切だと思っています。」
当時、河本ほむらさんは編集者から指摘されたところを翌日には対応していたようだ。このスピード感は珍しく、こういったレスポンスの速さが、担当編集との信頼度や関係構築につながる。連載会議のときに自身の作品が当落線上で別候補と拮抗していたとき、編集者として押したいのは少しでも信頼性が高い漫画家になるそうだ。
「おもしろい」とは何か。河本ほむらさんと武野光さんは以下のように語った。
「多くの漫画家は出版社を通して活動しています。出版社はそもそも商売で漫画を作っているため、考えとしては『売れそうか』というのがデビューの基準になります。その売れそうかの基準として出版社が重視しているのが『おもしろい』です。」
その「おもしろい」という感情を作るには、「意外性」と「納得」を与えることだと考えている。
「まずは『意外性』を与えることでびっくりという感情の動きを起こします。そして、その意外性に『納得』を与えて、読者の期待感に応えることでおもしろいと思わせることができます。」
気をつけておきたいのが突飛なだけの意外性を与えて、読者の期待を裏切らないことだと語る。例えば「敵と戦っていて、唐突に隕石が落ちてきて死んだ」となっても面白くない。意外性はあるが読者が期待しているのは主人公側が敵を倒すことであって、いきなり現れた何者でもないものが敵を倒すことではないのだ。
編集者はおもしろいを判断しなければならない。その判断基準として編集者はキャラクターとシナリオを主に見ているとのこと。中でもキャラクターを重視するそうだ。
では、キャラクターがおもしろいとは何か。河本ほむらさんは以下のように語った。
「面白い作品を振り返るとどれもキャラが立っているのが分かります。例えば『ONE PIECE』や『鬼滅の刃』などに登場するキャラに特定の状況を与えるとどんな反応をするのか想像できますよね。
このようにキャラが立っているとは、キャラが特定の状況になったときに、どういった行動をするのかが想像できることだと思っています。」
キャラ立ちをすることで、読者がそのキャラクターを気にするようになり「そのキャラが次はどうなるの?」と思わせて、漫画を読み続けるきっかけに作るそうだ。
キャラクターを立たせる方法は様々ある。その中で簡単なのが「リアクション」を考えることだという。
「例えば、馬鹿と言われたときにそのキャラがどういう反応をするか。この反応がリアクションであり、想像ができることがキャラ立ちです。
つまり、キャラを作ったときに頭の中で転がして、キャラがどのようなリアクションをするのかが思い浮かべばキャラ立ちが出来ていることになります。」
キャラクターがどういうリアクションをするか分かるようにするためには、キャラクターを「ブレない一人の人間」にする必要があるという。
「リアクションがストーリーに合わせた行動をとってしまうのはキャラがブレているというであり、それはつまりキャラが定まっていない状態です。このブレを無くすためにはキャラクターの中の『欲望』を明確にして上げることが大切です。」
おもしろいシナリオの作り方でも重要なのは「欲望」だと語る。
「おもしろいキャラの作り方と同様に、おもしろいシナリオを作るには登場するキャラの欲望を明確にするのが重要です。キャラの欲望を明確にすれば、キャラの行動指針ができるため、キャラをブレさせずにお話を作っていくことができます。」
欲望とは言い換えれば目的であり、目的がハッキリすればシナリオの流れも見えてくるとのこと。
例えば、『賭ケグルイ』の主人公である蛇喰夢子はギャンブルが大好きという欲望がある。その欲望をもとに意外性と納得を踏まえつつ、『賭ケグルイ』の最初の話をプロットにすると以下のようになる。
「世界観や設定を作ったら、状況(問題)やキャラ(欲望や目的)を作ることでリアクションが生まれます。そのリアクションを連続させることでシナリオになっていく。そしてプロットの各内容に意外性と納得を与えることで、それが面白さになっていきます。」
そして、最後に「自分のおもしろいを信じて努力すること」と語る。
「これまで論理的に述べてきましたが、おもしろいは主観であり千差万別です。なので、自分が思うおもしろいを信じることが大切だと思っています。あくまで参考として捉えて頑張ってみてほしいです。少しでも漫画制作に役立てていただければ嬉しく思います。」
セミナーの後編では前編でお話いただいたキャラクターの作り方を参考に、参加者全員で「キャラクターの作り方」をテーマにワークショップに取り組んだ。
キャラクターの概要(外見的要素など)や欲望、設定、キャラがどこで何をしてどうなる、意外性と納得はどこにある?といった項目を埋めて、河本ほむらさんと武野光さんに発表していく。
個性あふれる様々な発表があり、何にはお二人が盛り上がるような面白い作品もあった。どの発表にも真摯に答えて、分かりやすいフィードバックを参加者全員が真剣に聞く姿勢が印象に残るセミナーであった。
以上、河本ほむらさんと武野光さんによるワークショップイベントでした。武野光さんは兼業作家でもあるので、働きながら描く秘訣など働き方に関する質問などもありました。
その後、Twitterでは参加者の感想もツイートされていますので、こちらも合わせてご覧ください。
本日のヒューマンアカデミー様での講演会、お聞きくださった皆様、ありがとうございました! https://t.co/im6FqD8rT9
— 河本ほむら『賭ケグルイ』 (@ushimilksan) March 8, 2020
今日は河本とヒューマンアカデミーさんで講演会をさせていただきました。全国中継されるということで緊張しましたが、質問もたくさんいただけて、我々としてもとても充実した楽しい時間を過ごせました。
— 武野光 (むのひかる) (@poipheno) March 8, 2020
ありがとうございました!
この日のために?ダイエットに励んだ河本も浮かばれます。
『賭ケグルイ』の原作者の河本ほむら先生・武野光先生のトークショー&ワークショップに参加するべくヒューマンアカデミーに潜入してきました!
— 聖月 (@miduki_85) March 8, 2020
キャラの立て方・シナリオの作り方とワークショップでは講評まで、すごくわかりやすくとても勉強になりました!! pic.twitter.com/7NCine9LnN
漫画原作者の河本先生と@ushimilksan武野先生のワークショップトークショーに参加してきました!お二人の息のあった面白いトークで楽しかったです!講義内容も非常に分かりやすく、質疑応答にも丁寧にお答え頂きました。この内容で参加費0とは…また行きたくなる #賭ケグルイ #ヒューマンアカデミー pic.twitter.com/fzJVKZ8Z9R
— **倉地 よね ①❷巻発売中** (@KurachiYubune) March 8, 2020
クリエイターイベントを全国各地の総合学園ヒューマンアカデミー校舎にて無料で参加できます。
詳細は下記ページより随時更新してきますので要チェックです!
イベント情報は随時更新していきますので、気になる方はぜひ参加をお申し込みください!
keyboard_arrow_right参加を申し込む(C)Homura Kawamoto/Toru Naomura