2019年9月、全国の総合学園ヒューマンアカデミーにてアニメーター、キャラクターデザイナーとしてご活躍している田中将賀さんによるワークショップイベントが開催されました。
そこで今回の記事では本イベントのレポートをお届け。田中将賀さんによるトークショーや課題添削の一部をご紹介します。
《プロフィール》
アニメーター、キャラクターデザイナー。
『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』『君の名は。』などの大ヒット作品のキャラクターデザイン、作画監督を務める。
2018年には『ダーリン・イン・ザ・フランキス』のキャラクターデザイン、総作画監督。2019年には新海誠監督の新作『天気の子』のキャラクターデザイン、長井龍雪監督の新作『空の青さを知る人よ』のキャラクターデザイン、総作画監督として携わっている。
▼目次
総合学園ヒューマンアカデミーの次回イベントは11月2日(土)!ゲスト講師はAnmiさん!
教えて!田中将賀さん!
総合学園ヒューマンアカデミーにはクリエイター志望の学生が多く在籍しています。まずは田中将賀さんの紹介となる質問も兼ねつつ、クリエイター志望の学生に向けて役立つ内容を語っていただきました。
―― 『君の名は。』『天気の子』、そして最近では『空の青さを知る人よ』など数多くのアニメ作品でご活躍している田中将賀さんですが、アニメーターになったきっかけを教えて下さい。
田中将賀:
そもそもは漫画家を目指していたんですよね。高校時代には漫画賞に応募もしていました。結果は出ませんでしたが……。その後、理系の大学に進学したんですが勉強についていずに遊び呆けるようになり挫折していました。
そんな中、絵だけは描き続けていたので「絵を描く仕事に就きたい」と思い、自分なりに調べた結果、アニメーターを知ったんです。僕の学生の頃はインターネットが普及していなかったので、情報が少なかったんですよね。当時は漫画家やイラストレーターという仕事は人気にならないと、何枚も描いてもお金にならないと思ってて。当時の僕は実力や才能で稼ぐのは無理だなと思い、その中でアニメーターは枚数描けば安かろうが確実にお金がもらえると思い、選びました。
―― アニメーターという職業を目指す上で強い思い入れというのはなかったんですね。それから今では『君の名は。』や『天気の子』などの日本アニメ映画を代表する作品にキャラクターデザイナーとしても携わっていますが、こちらは。
田中将賀:
実のところ、当時はキャラクターデザインの仕事に興味がなかったんですよね。アニメーターになってからは、自分の画風や絵柄への意識は捨てており、アニメーターに必要なスキルであるレイアウト表現や芝居を描く画力などを大切にしていました。
そんな中で、アニメ業界で10年ほど仕事をしていたとき『家庭教師ヒットマンREBORN!』のキャラクターデザインのお仕事の機会をいただいたんです。いろいろと考えましたが、折角お話をいただいたのでやらせていただくことにしました。その仕事が今でも続くとは思っていませんでしたね。
▲漫画家の桐木憲一とトークセッションが行われた。
―― 続いてですが、絵の仕事には漫画家やイラストレーターといったものがあります。その中でもアニメーターとしてのやりがいはなんだと思いますか?
田中将賀:
アニメーターの仕事には、漫画やイラストの仕事と決定的に違うところがあって、一つの作品を作るのに多くのクリエイターが集まって働くところなんですよね。
意味合いとしては漫画家もアシスタントを使って集団で作品作りをしていますが、あれは主従関係(漫画家が「主」でアシスタントが「従」)がはっきりしている。けれど、アニメって多くのクリエイターが限りなく並列の関係で一つの作品に取り組んでいる環境なんですよ。
僕はその環境が水にあったんですよね。
学祭の前日のようなお祭り感をずっとやっているような楽しさがあって、そこが好きなんですよ。自分の手柄を独占したいというのもほとんどないし、みんなで良いものを作るほうが好きだし、楽しい。僕ってあまり「自分をクリエイター」として思ってなくて、「良い職人でありたい」という思いがあるんですよね。キャラクターデザインの仕事だけをしたい、ではなく作画監督でも他の仕事もやる。面白い仕事をやっていきたい欲求が強いです。
というところが、僕なりのアニメーターとしてやりがいの一つだと思っています。
―― これまで20年ほどアニメ業界でご活躍していますが、礎となるような経験はありますか?
田中将賀:
とある時期まで「自分がやる以上、作品にはこういう風に貢献したい! こういうフィルムを作りたい」のような、自分らはこうあるべきだ、みたいな熱いトークをするときがあって信念や熱意をもってしばらく頑張っていました。
ですが、7~8年ぐらいから熱意がなくなってきました。なぜかっていうと「誰も認めてくれない」から。大人の世界になると、そうそう誰も褒めてくれないんですよね。
例えば、毎日徹夜して頑張る中、隣の席の人が早く帰る。しかも「僕より出来が良くない」と僕が思っていても同じお金を貰っている。でも、自分のほうが出来が良いと思っても他人や視聴者からの視点でみたときの考えは一緒なのだろうか――、という考えたときに、こんな仕事をしていたら体を壊すし駄目なんじゃないかなと思うようになった。理想と現実の間に挟まれたかのように。何度もアニメーターを辞めようと思っていました。
そんなときに、「田中くんの仕事は間違ってないよ」と言ってくれる人が現れたんです。それが『僕のヒーローアカデミア』や『蟲師』などのキャラクターデザイン、作画監督を務めていた馬越嘉彦さん、そして『蟲師』や『悪の華』の監督の長濵博史さん。その二人に同時期に言われて、背中を押されたんですよね。そこから気持ちが楽になりました。
その経験が今のアニメ業界で働いている僕の礎なんじゃないかなと思っています。
―― ここには多くの学生がいますが、学生時代にやっておいた方が良いことはありますか?
田中将賀:
学生時代って自由な時間が多いので、絵を描く以外にもたくさんの経験をしておいた方がいいです。
例えば、「はじめてテニスをした」という経験。この「はじめて」というときの「考え」が大切で、どうすればいいのか、何をすればいいのかを考えるプロセスが重要です。アニメ作りって日常がモチーフの作品だけでなく、SFだったりファンタジーだったりと自分が体験したことがないことを描かないといけないことが多いので、自分の頭の中で考えるプロセスを身につけるのが大事です。
飲食しているキャラクターを描こう! ワークショップの添削会
続いて、行われたのがワークショップの添削会。参加者には事前に「飲食しているキャラクター」をテーマにイラストを提出いただき、セミナー当日に抽選で選ばれた方の作品を添削するという内容です。
テーマにはこんな意図がありました。
田中将賀:
「飲食」は生まれてこの方、誰もがやる日常動作のひとつ。食べ方ひとつでキャラクターの個性を演出できて、シチュエーションが作れます。飲食の描写を今まで避けてきた学生が多いと思い、あえて課題として出してみました。こういった今までに描いてこなかったものにどのようにアプローチするのかが重要です。
ですが、面白いことに抽選選ばれた学生作品の多くがハンバーガーやサンドイッチなど手に持って食べているシーンでした(笑)。手に持って食べるってのが一番簡単なんですよね。
―― ということで、添削作品の一部をご紹介します。
▲添削会の様子
学生作品1:スイーツを食べる女の子
田中将賀:
見せたいものがスイーツというのが伝わってきます。ですが、スイーツありきで描かれているので若干バランスが悪いかな。机の空白が目立つのでスイーツの位置を下げても良かったです。または、下の空間に飲み物やシロップを置いてあげるとスイーツを強調できるし、奥行きが出ます。
今回のように机に対して、真正面にキャラクターを描くのは難しくて、バランス的には顔を下に向けたアングルの方が良いかもしれないです。食べ物の巨大感を表現するのであれば元絵でもありかなと思うけど、上から下を見るようにしたほうが「これから食べるぞ」というのが演出できるかなと。
あと、喜びを表現するなら周りにパッーとした表現があると分かりやすいかな。
こういったレイアウト作りやデザインは、プロになっても1発で描きたいものが決まることはそうそうないので、何案も描いています。そして、その中から決めるって流れ。上達させるためにも、自分が描きたい絵を途中、又は完成してから見直すのをたくさんやるといいと思います。
学生作品2:麺を食べる女の子
田中将賀:
数少ない、箸が描かれた作品でした。
妹が写った写真を元に描いたとのことですが、箸の持ち方が特殊、妹の癖かもしれないけど。個性として表現するならありだけど、正しい持ち方でも描けるとなおいいですね。
左手の持ち手がいいね。モノを持つときって指で持つんだよね。だけど、観察してない人は手のひらで持たそうとするのでよく描けてる。
あとは難しいけど、麺をすするときは、顔がもうちょっと下を向いていたと思う。これを描くのは結構難しいんだよね。
写真を参考に描いているんだから、あえて写真立てを描いている設定でもいいかもね。
学生作品3:浜辺でハンバーガーを食べる女の子
田中将賀:
違和感に気づいたと思うけど、かなり波打ち際にビーチパラソルを置いてある。
よく考えてみると浜辺と海の高さは同じじゃないんだよね。同じだと波が来るたびに陸が水没しちゃう。だから陸側は丘になっている。これが浜辺を描くときの豆知識。これが分かっているかどうかで描写が変わってくる。
ということは、この作品ように海を見せつつ、砂場を描きたいなというときは奥にもう一個、丘を作ってあげる。
レジャーシートがお一人様というか、キャラクターに合わせたようなサイズになっているのでちょっと大きめに描いてあげたり。さらにビーチサンダルをおいてあげるとストーリー性が生まれたりします。
飲み物があるのもいいけど、キャラクターに触れそうなぐらい近いので、もう少し離れたた位置に置くのが自然かな。
あと、お腹に見える髪の毛。全体的に真後ろに流れているのではなく、意図的にキャラクターの左側に流れているように見える。だから、両サイドから髪がお腹側にはみ出るようにしたほうがバランスが良くなる。
クリエイター志望の方へのメッセージ
最後に、クリエイター志望の学生に向けたメッセージをいただきました。
田中将賀:
プロの絵描きは茨の道です。
日頃から悩みや問題がたくさん生まれてきます。それらの解決方法は自分で見つけていくしかないので、自分との戦いなんです。そんな状態なので精神的に辛くなることもあります。だから、本気でプロになるなら心のケアの仕方を知る、発散方法を心得ておくことだと思います。
僕のような立場になると「不安になるようなことはない」と思っている人がいるかも知れませんが、つい最近も『空の青さを知る人よ』が完成してから一週間ぐらいずっと不安でした、もう仕事が来なくなるんじゃないかと。作品が評価されないんじゃないかと。この感覚は僕と一緒に作品を作ってきた方々も同じです。そんな世界です。
だけど、作品が完成した喜びや認められる喜びもたくさんあります。この業界で20年以上やっていけているのは、その喜びが勝っているからです。損得勘定で得だと思っているからやっています。
そういう意味では上手かろうが早かろうが、才能があろうが辞める人は辞めます。それはその人の損得勘定の結果だから。だけど、辞めること恥じる必要はないです。昔、教育担当をやっていたときに、辞めるって言ってきた後輩が僕に言うんです、「すみません」って。続けられないことを恥じるように。
だけど、恥じる必要なんかなくて、それはこの世界が合わなかっただけ。それが早めに分かったなら、まだ自分の人生をリカバリできるんだから次に進みなさいと思っています。
イベント参加者の感想
以上、田中将賀さんによるワークショップイベントでした。今回も参加者からたくさんの質問が集まり、盛り上がりのあるセミナーとなりました。これまでの添削と異なり、レイアウトの話が多く、参加者にはこれまでと違った視点で学びがあっと思います。
その後、Twitterでは参加者の感想もツイートされていますので、こちらも合わせてご覧ください。
ヒューマンアカデミーさんでのワークショップ無事終了!
— 田中将賀@『空の青さを〜』10/11公開 (@tanamasa0119) September 16, 2019
皆さんから質問受け付けたらたくさんあって楽しかったです。
いつもの如くノープランで描いて喋りましたが脳のトレーニングになって良かったです。ただし今日はもう使いものになりませんが(;´ρ`)
受講した皆さんもお疲れ様でした!
総合学園ヒューマンアカデミーの次回イベントは11月2日(土)!ゲスト講師はAnmiさん!
次回にお越しいただけるのは『ドールズフロントライン』などの一部キャラクターデザインを手掛けるなど、最近では個展や画集販売で一際注目を集めているクリエイター、Anmiさんです!
開催は2019年11月2日(土)。参加申し込みはこちら!
【申し込み無料】<全国開催>有名クリエイターによるスペシャルイベント開催!
2019年11月2日(土)にAnmiさんによる特別セミナーが開催!
こちらも無料イベントですので、気になる方はぜひ参加をお申し込みください!
keyboard_arrow_right参加を申し込む