イラスト制作ツールの進化に伴い、便利な機能が日々増えています。でも、ペン入れをする時の「一発勝負」のような緊張感を忘れていませんか?このドキドキはアナログ制作の醍醐味です。
人気漫画で脚光を浴びた「水墨画」
アナログイラストの種類は、油絵(油彩)、水彩、色鉛筆、コピックなど多岐にわたります。その中でも、力強く繊細なタッチが魅力的な「水墨画」。『バガボンド』や、『ストリートファイターⅥ』『大神』などで注目され、躍動感が溢れる筆を使用した独自のテイストは、デジタルイラストが主流の今でも根強い人気があります。
▼バガボンド(著作:井上雄彦)
『バガボンド』 著:井上雄彦
▼ストリートファイターⅣ
『ストリートファイターⅣ』
©CAPCOM U.S.A., INC. 2014 ALL RIGHTS RESERVED.
出典:PS3/Xbox360『スーパーストリートファイターIV』 SUPER Promotion Trailer7
公式サイト:http://www.capcom.co.jp/sf4/
▼大神
『大神』
(C)CAPCOM CO., LTD. 2006, 2012 ALL RIGHTS RESERVED.
出典:PS3『大神 絶景版(HDリマスター)』プロモーション映像
公式サイト:http://www.capcom.co.jp/o-kami/zekkei/
今回は東洋美術学校 (http://www.to-bi.ac.jp)さんとタイアップして、「水墨画を使ったイラストの描き方」をご紹介します。水墨画(中国水墨画)に挑戦してみたい方はもちろん、水彩塗りなど筆を使ったイラスト制作にも幅広く応用できますよ。
水墨画って?
水墨画とは、「墨」の濃淡やかすれ、ぼかしによって空間を表現する絵画です。「水墨画では『似ている、似ていないの間がよい』と言われている」と語るのは同校で中国水墨画科の講師を務めている椎名先生。「写真の様にそっくりだと面白みがなく、かと言って何が描かれているのか分からない様でもいけません。何本かの少ない筆の線でも、花に見えたり、竹に見えたり、鳥に見えたりします。少ないものや単純なもので多くを表現できるというのが魅力のひとつです。技法的には、水墨画は墨と水で遊ぶ「墨戯(ぼくぎ)」とも言われています。濃淡の変化、かすれ、にじみなど、水の含みや描くスピードによっても変化があり、一筆一筆同じものはありません。意図せず良い効果が生まれることもあるのが面白みです。」
さっそく実践! 水墨画を実際に描いてみよう
今回は水墨画を使って、女性キャラクターを描きます。
用意するもの
水墨画を描く際に用意するものは
- 筆
- 墨
- 紙
- 水
- 下敷き
- 硯(すずり)または絵皿
以上の6つです。専用の物を買わなくても、代用可能な物もあります。
■筆
筆の種類や名称は細かくありますが
今回は主に
- 線画用の細い筆
- 大きな面を書く太い筆
の2種類を使います。
■墨
水墨画用の墨もありますが、市販されている墨汁でも描画は可能です。
水墨画は単色だけで絵を表現するため、色の濃さを使い分けることが非常に重要です。
濃さは水の量でコントロールします。初心者の方はあらかじめ、濃さが異なる墨をいくつかの絵皿に分けて作っておくと良いでしょう。
■紙
水墨画用の紙は「宣紙(せんし)」「画仙紙(画仙紙)」等と呼ばれています。にじみによって複数の種類に分けられます。お好みでOKです。
- 熟宣紙(じゅくせんし)
色彩が豊富な表現をする工筆画(こうひつが)に向いている紙です。
ドーサと呼ばれる液体を引いてにじまないよう加工してあります。
熟宣紙に描いた工筆画
- 生宣紙(なませんし)
ドーサを引いていないため、墨をおくとにじみます。
にじみを活かした表現をする写意画に向いています。
生宣紙に描いた写意画
■下敷き
フェルト素材の下敷きを利用します。
濃淡や色合いが見やすいので白の下敷きを使うのをオススメします。
■硯(すずり)又は絵皿
濃さが異なる墨をいくつか作るため、複数枚用意しておきましょう。
下準備
1.下書き
まず、下書きを描きます。鉛筆でも、墨と同じ木炭を使ってもOKです。
本画制作
細い筆で線画を描きます。工筆画の場合は、細かく線画を描くのが一般的ですが、今回は筆のタッチが出やすい写意画を制作します。輪郭線だけ線で描き、髪は筆のタッチを出します。輪郭線と一口と言っても、目・肌・衣服など、それぞれの質感や本来の色に合わせて、墨の線の濃さ・太さ・乾湿を変えて書いていきます。
水墨画のテクニック
イラストに筆らしい表現を足していきます。水墨画では書道と同じ筆づかいを用います。「描く」というよりは「書く」というニュアンスが近いです。濃淡やぼかしを効果的に入れることで、やわらかさ、あたたかみが出ます。またかすれた調子で力強さやスピード感を表現することも出来ます。
筆使いによる表現
毛先の立て方、筆の入り抜きによって仕上がりは大きく変わります。
中国で有名な画家、范曽さんの作品
■中鋒と側鋒
- 中鋒(ちゅうほう)
墨線の中央を筆の穂先が通るように、筆を立てて書く筆使いです。
- 側鋒(そくほう)
穂先が墨線の側面を通るように、筆を傾けて書く筆使いです。
この中鋒と側鋒を使い分けることにより、筆の強弱を上手く表現することができます。
■起筆と収筆
起筆と収筆は筆の入りと抜きのことです。
- スッと入ってスッと抜く
- スッと入って止めて終わる
- 止めて入ってスッと抜く
など、抜き方にも違いがあります。筆が抜ける方向、毛先が向く方向を意識しましょう。
墨による表現
■かすれ
水墨画の「かすれ」は、平面的な表現をする水墨画で躍動感を与える重要なテクニックです。
■濃淡(のうたん)
筆に墨をつける時に、まず薄い墨をつけ、次に筆先だけに少し濃い墨をつけます。こうすることで筆の中で既に濃淡の変化が出来。書いた時にも自然と濃淡が表せます。
■乾湿(かんしつ)
かすれで描かれた部分と、しっかりと墨で描かれた部分を使い分けることで、表現の幅を広く使い分けます。
■破墨(はぼく)
写意画でよく使われる、濃さの違う墨を重ねることで立体感を出す表現方法です。
薄い墨を塗った後、乾く前に上から濃い墨を塗ることによりにじませます。
■分染
工筆画の技法のひとつで、グラデーションの表現ができます。
墨(または色)をつけた筆と、水だけの筆の2本の筆を使います。
グラデーションをかけたい場所に面積の1/3程度の墨を塗り、水だけを含ませた筆で墨を伸ばします。乾いたら同様に、墨を重ねて水で伸ばします。これを繰り返すとグラデーションを表現できます。水を含んだ筆の水分は少なめにすると、ムラを防げます。
■質感の違いの表現
硬いもの、柔らかいもの、ザラザラしたもの、すべすべしたもの…質感の違いを表現出来るよう、墨の濃さや線の太さを変えたり、かすれやにじみを効果的に使っていきます。
このように、筆跡を残すように大胆に塗った髪の毛と、柔らかな質感の花びらのコントラストを印象的に仕上げることも出来ます。
ひと筆ごとに表れる作家性
紙など素材による効果の違いや、筆にどのくらい水分・絵具・墨が含まれているか、筆のタッチ・スピード、どの程度乾いてから重ね描きするか……など、描くたびに違った効果が生まれる水墨画は、作家によって大きく作風が変わります。
「同じ技法を使っても、一人ひとりその人にしか出せない効果があります。まずは水墨画の技法にはどんなものがあるかを知ってもらい、それを自分の作品に応用出来るかと考えてみてほしいと思います。自分自身の方法に水墨画技法を取り入れて、他にない、新しいものを作れたら最高ですね」と語る椎名先生。
オープンキャンパスで、気持ちが筆に乗る体験を
「精神のゆとりが作画に反映されるのも水墨画の特徴。心に余裕がなければ美しい墨色、力強い線を自ら出すことは出来ないと感じる」と語る生徒さんもいらっしゃいました。
東洋美術学校のオープンキャンパスでは、水墨画を無料で体験できます。講師による直接指導も受けられるこの機会にぜひ、足を運んでみてはいかがでしょうか。