漫画の日仏翻訳の「あるある」と「ダメダメ」話

漫画の日仏翻訳の「あるある」と「ダメダメ」話

皆様、ボンジュールです!フランスの漫画出版社Ki-oon (キューン) 、東京オフィス代表のキムです。

 

2016年から新人作家を日本で募集しています。

 

まずはフランスで作品を発売し、そこからチャンスがあれば日本語も含め、他国でも出してもらうという形になります。

無論、制作過程は日本語で進めますが、最初に出るのはフランス語版です。

 

しかし、日本語とフランス語はかなりかけ離れた言語なので、翻訳者にとってチャレンジの連続なのです。

 

今回は、そんな漫画翻訳者たちのあるある話をご紹介しましょう!

 

▼目次

オタクから翻訳者へ

男か女か、はっきりしてよ〜

ちゃん、さん、さま、殿:なんじゃそれは?

言葉がない?!

 ドドッドッドカーン!

 ギャグは悪夢だ!

翻訳で日本を肌で感じる

 

 

オタクから翻訳者へ

全員というわけではないですが、翻訳者の多くは、漫画やアニメの影響で日本語を学び始めた人で、サブカルの影響力は侮れないものです!

 

80年代・90年代のアニメ放送によって、私も含め、多くのフランス人の人生 が一変しました。

 

「何これアツすぎる!!この世界に行ってみたい!!」という妄想にふけっていきました……。日本の文化にハマり、熱心に日本語を身につけた者が少なくありません。

 

そのおかげで、ここ10年の間に優秀な翻訳者がどんどん増えてきました

 

漫画の翻訳者はフリーランスとして働き、自分のスキルを証明した上で、複数の会社と契約するのが一般的です。Ki-oonではテストを設けており、日本語のレベルだけではなく、フランス語の文章力と、漫画の独特な表現に関する知識まで確かめます。


漫画の翻訳

△フェデゥアさんはフランスの優秀な翻訳者の一人です。「ドラゴンボール」を始め、多くの名作を担当しています。そして、昔からのオタクです!漫画とアニメを通して日本が好きになったという。

男か女か、はっきりしてよ〜

それぞれの言語に難しいところがあります。日本語の場合、なんだと思いますか?

 

漢字やひらがな、カタカナ、そしてローマ字も使用しているところがひとつ。しかし翻訳者にとっての一番の問題は、女性形・男性形・複数形・単数形がないことです。

 

「このキャラ、男?!女?!今の仲間の話って、一人の仲間?!数人?!わかりませーん!!はーーー!!」というような葛藤がたびたびあります。

 

日本語が母国語でない人からすると、とても曖昧な言語だと感じてしまいます。男性形を使って紹介していたキャラが、実は女性だったり……。

 

 

もっと難しいのは、著者さんがわざとキャラの性別を隠している場合。

 

諌山創先生の『進撃の巨人』のハンジはそのいい例です。CLAMP先生の『X』や『xxxHOLiC』のような、その曖昧さが魅力のひとつである作品の翻訳はかなりややこしいです。 フランス語は特に、曖昧なものを許しません!

 

性別と言えば、原作のキャラ名がフランス語では異性の名前になっているケースもあります。

 

一例を挙げれば、『FAIRY TAIL』のシャルルという女の子猫。しかしフランス語でCharles(シャルル)は男性の伝統的な名前です。
そこで、著者さんの許可を得て、Carla(カルラ)という女性形の名前に変更することになりました。

 

ちゃん、さん、さま、殿:なんじゃそれは?

ご存知のとおり、日本語は場面に合わせて上下関係を名前の呼び方によって表されます。しかし、フランス語には敬語があるとしても、ニュアンスがそこまで豊富ではありません。

 

2000年ごろ、フランスに漫画が導入されたばかりの時期には「Haruka-chan」、「Kisaki-kun」というような訳し方が流行っていました。

 

読者がどちらかというとオタクが多かったこともあり、漫画を通して日本文化をそのまま感じたい願望が強かったのです。

 

しかし漫画がフランス社会に浸透していくに連れて、逆に理解しにくいと感じる読者が増えてきました。すると「-chan」、「-sama」などはやめて、フランス語の自然な敬語を使用するか、先輩・後輩関係を表すヒントをさりげなくセリフの中に織り込むか、そこもまた色々工夫します。

 

全体的な問題として、日本の漫画のセリフは話し言葉になっていますが、フランス語で話し言葉にすると印象が全然違います。面白いことに、下品に感じてしまうか、訛っているようにまで聞こえてしまいます!

 

日本語ではキャラの特徴を話し方(方言、昔の言葉など)で表現できますが、フランスは世代のギャップが日本ほど激しくなく、方言がほとんど全滅しています。


そのため、ニュートラルで、文法的に正しい書き言葉で翻訳することが多いです。

 

言葉がない?!

日本の文化を背景にした作品も、翻訳者は頭を抱えてしまいます。

 

例えば、野田サトル先生の『ゴールデンカムイ』。

 

 

作品に出ている蝦夷の地域名、植物名、動物名に関しては、かなりのリサーチを要します。通常のフランス語辞書には載っていない単語が多いからです。

 

植物と動物に関しては、結局ラテン語まで戻り、そこから一番近い単語を選ぶという、歴史を辿るような過程を経ています。ご苦労!

 

逆に日本語にもフランス語にも、もともとない単語は同じものにします。

 

フランスでも『ゴールデンカムイ』のファンが美味しいものを食べると「hinna hinna」(「ヒンナヒンナ」は、作品中に登場する、「食べ物に感謝しておいしくいただく」というアイヌ語)と発しているはずです!

ドドッドッドカーン!

漫画文化のもうひとつの特徴は、擬音のバラエティーです。あれは本当にすごい!沈黙まで「しーん」という擬音で表現されていますよね。

 

一方で、フランス語にはぴったり当てはまる擬音がほとんどありません。仕方ないので、擬音だけではなく、名詞や動詞で訳したりしています。

 

「しーん」は場合によって「silence」(沈黙)、「あせ あせ」は「panique」(パニック)、「にこっ」は「smile」、などなど。
Ki-oonでは、10ページ分もの擬音に関する指示の資料が作成されましたが、まだまだ足りません!

 

ギャグは悪夢だ!

最後に、一番困るところは、やはりユーモアです!

 

『キッド アイ ラック!』という大喜利をテーマにした作品の翻訳者は笑いながらこう言っています、「悪夢でした!」と。

 

 

こちらの記事 にも書いたように、フランスと日本のギャグセンスには相違点が多い。しかし、『ONE PIECE』のような少年漫画にもギャグが多く、避けては通れない道です。

 

正直、全てのギャグをそのまま翻訳することは不可能なので、絵に合わせつつ、ユーモアが通じるように、セリフの内容を変えることもあります。 

 

人を笑わせる才能も、翻訳者に必要なスキルのひとつです!
 
漫画の翻訳
△ 『ONE PIECE』を翻訳しているジュリアンさん。『ONE PIECE』の文量と、ギャグの訳し方に悩むことが多いらしいです。

 

翻訳で日本を肌で感じる

ここまで述べてきた問題点についてじっくり考えてみますと、日本とフランスのそれぞれの文化に関して、色々なヒントが得られます。

 

上下関係に対する考え方、会話の背景を重視しているがゆえの曖昧な文法、中性的な者に対して感じる魅力……。

 

外国語を勉強すればするほど、その社会のコアな部分に迫っていきます。翻訳は、ストーリーを伝えるためにあるだけでなく、異文化を肌で感じさせるために役立つと思います。

 

まさに遠い国の間の架け橋なのです。

 
Ki-oon

△    キムです。一緒に漫画のフランス語版を作ってみませんか?

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Ki-oon公式ウェブサイト(フランス語のみ) : http://www.ki-oon.com/

東京オフィス連絡先:

代表名:キム・ブデン

住所:c/oフランス商工会議所

    〒102-0085東京都千代田区六番町5-5 飯田ビル

メール:kim@ki-oon.com

電話番号:03-6824-9596
 

Ki-oon

 

Ki-oonの東京オフィス代表キム・ブデンについて:講談社の国際事業局で四年半働いた後一旦帰国、三年半フランスの漫画出版社・PIKAの編集長として勤め、2015年の10月からKi-oonの在日オフィス代表として日本に戻り、現在に至る。

 

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