ノベルゲーム背景イラスト講座です。「主人公の部屋」のような”ゲームでよく登場する室内の背景”をモチーフに制作手順や描き方のポイントをご紹介するシリーズ。
レイアウト編、彩色編、仕上げ編に引き続き、差分のイラストの制作方法を解説していきます。前回は夕方の差分イラストの制作方法をご紹介したので、今回は夜の差分イラスト制作方法を解説していきます。
夜差分はこちらの日中帯のイラストをベースに制作します。前回の記事をご覧頂いていない方は、下記講座より振り返りください。
▽ シリーズ関連記事はこちら
▼目次
夜差分の制作1(照明点灯)
夜の状態は、照明のON・OFFやカーテンの状態で表現します。
室内の照明が点灯し、カーテンが閉じられている状態と、照明が消灯した状態の2パターンです。
1.カーテン素材の制作
昼の状態ではカーテンは開いているものとして制作しました。
夜の差分を制作するにあたって、カーテンを閉じている状態の素材を制作する必要があります。
開いている状態のカーテンを確認し、ヒダ山の数を基準にして長さを合わせていきましょう。作例ではカーテンのヒダ山は6つありますので、レール上に6つのヒダ山を等間隔に描き、それをつなげるようにカーテンを描きます。
線画を描いて形を確認したら、そのまま着彩してカーテンの凹凸を描き込んでいきます。
ヒダ山を中心にしわができて凹んでいる部分は暗く、曲面の凸部分はベースより明るく描くことで明暗が生まれ、しわや凹みを表現できます。
右側のカーテンを描いたら、左側にコピーして形を整えておきます。
カーテンの下には必ず影を入れておきましょう。影を入れることで、壁とカーテンの間に隙間があるように見せられます。
ブラシツールで直接描くとムラになりやすいので、選択範囲を作成して乗算モードで塗りつぶしたほうがきれいに描けます。カーテン素材を作成できたら、開いている状態のカーテンと入れ替えて配置しておきましょう。
2.全体の明暗調整
ここからは全体の雰囲気の調整をします。
まずは調整レイヤーを使って全体的な明暗を変更します。
トーンカーブの調整レイヤーを使い、全体を少し暗くします。また、ブルーチャンネルのグラフの中央を少し下げて青みを減らしました。
△ 調整レイヤーで色合いを変更した状態
トーンカーブの調整レイヤーの上に、オーバーレイモードのレイヤーを追加し、天井照明の色合いで薄くブラシをかけます。色は少し緑色寄りの黄色を選択しました。
光の色合いで室内全体を塗ることで、昼の状態と雰囲気を変えられます。また、トーンカーブの調整レイヤーのレイヤーマスクも少しマスキングしておき、照明などを明るく戻しておきます。
最後にハードライトモードのレイヤーを追加し、照明部分を中心に薄くブラシを掛けて光の効果を描き込んで完成です。
窓外からの光を削除するだけだと、昼の状態とあまり変化がありませんので、照明の色合いを強めにするなどして差を出すように意識してみてください。
夜差分の制作2(照明消灯)
照明を消した夜の状態は、実際にはほぼ真っ暗になってしまって、ものがあまり見えなくなります。
ただ、それを絵として再現すると暗くなりすぎて絵になりませんので、夜に見えつつも物の配置が分かるような調整が必要です。 全体的に青みがかった印象にすることで、夜の雰囲気を出すようにします。
1.照明効果の非表示
まずは照明効果など、不要なレイヤーをすべて非表示にします。
光の効果のレイヤーは必ず分けておくようにしておきましょう。レイヤーにカラーをつけて分類する目安になります。
2.全体の明暗調整
トーンカーブの調整レイヤーを追加し、全体の色合いを調整します。
RGBチャンネルで全体をかなり暗くしてから、ブルーチャンネルのグラフ中央を少し上にあげて青みを追加します。
この状態では、全体が暗くなってしまい、ディテールがつぶれてしまいます。ここからさらに色を変更するなど、調整を重ねていきます。
調整レイヤーの上に、カラーモードのレイヤーを追加します。カラーモードで塗りつぶすと、その色単一のトーンに変更できます。青色を選択して塗りつぶすことで、全体に青みを足せました。
ただし、このままではモノトーンになってしまい、色合いの変化をつけることができません。
カラーモードレイヤーの上にさらにレイヤーを追加して、明暗や色合いに変化をつけます。
壁の隅などは、乗算モードのレイヤーを追加して暗くします。壁の中央や手前の床などは、オーバーレイモードのレイヤーを追加して、明るい色でブラシを掛けて塗り進めます。
最後に、カラーモードのレイヤーにレイヤーマスクを追加し、手前側を中心に少しマスクをかけて下地の色合いを表示させます。こうすることで、単にモノトーンにするのではなく、手前側は材質の色合いが少し見えているように演出できます。
以上で夜差分イラストの完成です。
まとめ
仕上げ編や差分編を含め、これら背景イラストは光の効果や雰囲気を作り込むことが重要になります。
光の効果を表現するためには、オーバーレイモードやハードライトモードをうまく使うことがポイントです。
今回の例では、トーンカーブの調整レイヤーを使った色合いの変更方法を紹介していますが、レベル補正など、他の調整レイヤーを使用しても構いません。自分の気に入る雰囲気になるように、いろいろと試してみるとよいでしょう。
全体のまとめ~最後に
今回の記事でノベルゲーム背景イラスト講座シリーズが終了です。これまでにノベルゲームの背景イラストの制作フローを一通り説明してきました。
1から制作していく場合、レイアウト→彩色→差分制作と、多くの工程があり、時間も掛ります。実際のゲーム制作では、レイアウトだけ、彩色だけのように一部の制作を担当することも多いです。
まずはレイアウトを完成させる、彩色を作り込むというように、区切りをつけて練習してみるとよいでしょう。
ゲーム用の背景イラストは差分を作成することが前提になるため、光源の効果や影などはレイヤーを分けて取り外しができるようにしておくことが必要です。彩色しているときに、差分を制作するときはどのような光の効果を入れるか、影をどうするかをイメージしておきましょう。
これら背景イラストは自著である『背景CG上達講座』(翔泳社)に詳しい解説がありますので、よろしければそちらもご参考下さい。
▼『背景CG上達講座』
https://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798137568
著・画 bcd
pixiv https://pixiv.me/bcd
twitter https://twitter.com/poskara
フリーランスのイラストレーター。専門はゲーム・アニメの美術設定、背景イラスト制作を手掛けています。イラスト制作業務のかたわら、専門学校で背景イラスト・アートワークの講義を担当。
著書に「背景CG上達講座」(翔泳社)。講師としては、岩崎学園横浜デジタルアーツ専門学校 非常勤講師、専門学校東京ネットウエイブ 非常勤講師、バンタンゲームアカデミー 講師を勤めています。