1340億円市場(2024年度予測)とされる同人誌市場。2020年の741億円から急激な成長を遂げている。(出典:矢野経済研究所)
その背景には、従来のようにクリエイターがクライアントの受託制作や出版社を仲介した制作に依存するのではなく、自身のコンテンツやサービスを直接制作・販売することで生計を立てられる新たな仕組みが整ったことにあります。
こうして創作の自由と収益化のハードルが同時に解消された現在、クリエイターたちはこれまで以上にのびのびと活動できる時代を迎えました。
本シリーズでは、そんな最前線で活躍する多彩な経歴をもつクリエイターの皆さんにインタビューを敢行し、それぞれが辿ってきた道のりと今なお進化を続ける創作の現場に迫ります。
※本記事は『DL同人、はじめてみたらこうだった 成功者の実体験から学ぶ自分らしい稼ぎ方』(著:いちあっぷ編集部、構成・執筆:いしじまえいわ)から一部抜粋したものです。WEB向けに一部調整しているため、本書と内容が一部異なります。
目次
DL同人ゲームの企画作りの考え方
DL同人ゲーム作りの難易度設定の考え方
DL同人ゲームの開発環境
DL同人ゲームの仕様の考え方
インタビューイー:Ixy
イラストレーター業を中心にYouTubeやDL同人ゲーム制作などマルチな活躍をされているクリエイター。
X:@Ixy
YouTube:https://www.youtube.com/@ixy
DL同人ゲームの企画作りの考え方
――Ixyさんがゲーム開発をされる際のプロセス(工程)について教えてください。まずはキャラクターイラストを描いたり同人誌を出したりされたということでしたが、ゲーム本体の制作としては最初にどんなことをされるんでしょうか。
Ixy:
まずはプロット作りですね。
「こういうタイプの登場人物がいて、最終的にこうなります」ということだったり、僕が作っているのは成人向けのゲームなので「こういうタイプのシチュエーションのシーンがあります」といったことだったりを考えて、文章にします。
次に、シナリオ担当の方と打ち合わせをして全体の展開の流れを作ります。
――プログラム担当の方の他にシナリオ担当の方もいるんですね。
Ixy:
役割上はそうなのですが、実際はシナリオ担当の方はプログラム担当と兼任の場合が多いです。
インディーゲーム開発者には「絵だけ描けない」という方が多いので。シナリオを外注する場合もありますが、ミニマムで言えば僕とプログラム兼シナリオの方、2名で作成できますし、実際その体制で制作するケースが多いです。
一方でシナリオ担当が別に必要な場合は外注することもあります。
シナリオが完成したら、あとはもう担当ごとの作業をそれぞれするって感じですね。僕は絵を描く、プログラム担当の方はプログラムを組む。
週に1回、少なくとも月に2、3回はミーティングをして進捗確認や意見の出し合いをして完成まで走り切ります。
とはいえゲーム制作はそんなにすぐには終わりませんから、一気に走り切るというよりは1年以上走り続ける持久走になります。
――ゲームを企画する上で、アイデアなどを生み出すコツはありますか?
Ixy:
やはりまずは自分でお金を出して同人ゲームを買って、プレイしてみることですね。
最初は全く何も思い浮かばないのが普通だと思いますが、何本かプレイすることによって「こういう仕組みだったら面白いんじゃないか?」というようなアイデアが生まれます。
そういったアイデア1つだけでも十分なので、その点だけ変化させればオリジナルのゲームにできます。
――企画のオリジナリティを出すためには、どうすればいいでしょう?
Ixy:
逆に、特に初めてゲームを作る際は、あまり目新しいものをゼロから作ろうとしない方がいいと思います。
どうしてもハードルが高くなってしまいますから。それよりも自分が買ってプレイしてみて面白かったゲームの特徴や面白かったと感じた理由をしっかり考えて、一度言語化するといいです。
「どうしてこのゲームを買いたいと思ったんだろう?」というレベルから問い直すことで、自分がどんなジャンルのゲームが好きで作りたいのか、どんなアイデアを持っているのかが見えてくるはずです。
先程もお話しましたが、「このゲームのここのところ、自分だったらこういう感じの方がいいな」と思うポイント1点だけでもアレンジして盛り込めれば、十分オリジナリティになると思いますよ。
DL同人ゲーム作りの難易度設定の考え方
――ゲームの難易度は作り手のこだわりが出るポイントだと思うのですが、Ixyさんはどのように設定されていますか?
Ixy:
これについては基準が明らかで、自分だと簡単すぎるなと感じるレベルのさらに下のレベルで設定しています。
謎解きであれば、答えそのものをはっきり明示してしまうくらいのレベルですね。難しすぎるよりは簡単すぎる方がいいです。
――それはどうしてでしょうか?
Ixy:
理由は2つあって、1つ目は、僕や一緒に作ってくれているプログラマーの方はデバッグプレイを何度もするので、初めて遊ぶ人の感覚が分からなくなってしまうんです。
もう完成直前くらいになるとRTAみたいなプレイングになっちゃう(笑)。だから自分の感覚よりもずっと簡単に作らないとユーザーには難しすぎちゃうんです。
もう1つの理由は、多くのプレイヤーが難しいものを求めていない、ということです。
コアなファンの方はもっと難しくて長くプレイできる本格的なものを希望されたりするんですが、声を上げないプレイヤーの多くは2,000円前後で買えて2時間程度でストレスなくクリアできるくらいのゲームを好んでいます。
だからそのくらいの値段や規模感のゲームになるよう設計しています。
――ではIxyさんは規模の大きめなゲームを作る予定はない、ということでしょうか?
Ixy:
いや、実は今、それなりの規模のゲームを準備中です。でもそれはユーザーの声を反映してではなく、単に僕が大作寄りのゲームを作りたくなったからです(笑)。
これからゲーム制作を始めるなら、プレイヤーにとっても制作サイドにとっても、やっぱりコンパクトなゲームの方がいいと思います。
DL同人ゲームの開発環境
――続いて開発環境について伺います。現在のインディーゲーム開発において、どういったゲームエンジンが使われることが多いのでしょうか?
Ixy:
今はRPGツクールやUnityを使うケースが多いと思います。どちらもアセットが多いので、先人が作ってくれた便利なものをどんどん活用させてもらうのがいいと思います。
たとえば格闘ゲームなんかはもう無料のアセットだけでも作れちゃいますね。
僕は絵専門で役割分担していますが、絵描きの方がUnityをいじっているうちに組めるようになるケースも多いので、まずは触ってみるのがいいと思います。
――難易度的にはやっぱりRPGツクールの方が入りやすかったりするんでしょうか。
Ixy:
どっちもあまり変わらないと思いますよ。
確かにRPGツクールの方がとっかかりはいいので、「初めてゲームを作ってみよう」というステップにはいいかなと思います。
ただ、売り物になるレベルのゲームを作ろうとするとツクールも結局プラグインを入れないといけなくなるので、それなら最初からUnityでいいんじゃないかな? と僕は思います。
――主要なエンジンはRPGツクールとUnityの2つと考えていいでしょうか。
Ixy:
もう1つ、WOLF RPGエディター、通称ウディタというのもあって、無料なこともあってこれもよく使われていますね。
RPGツクールは有償ですが、たまに半額とか70%OFFとかになるのでそのタイミングで買うのがオススメです。
Unityは最初は無料で、使用者の収益が一定額を超えると月額いくらのサブスクリプションになります。
――先ほどデバッグについてお話がありましたが、基本的に開発に関わるお2人だけでやられているのでしょうか?
Ixy:
自分たち以外にも、知人などに声をかけてプレイしてもらっています。バグ潰しは結構時間をかけますね。完成間際の数週間は、自分でもしっかりやり込みます。
あまりにやり込み過ぎて「これ本当に面白いのか?」と分からなくなっちゃったりしますね(笑)。
DL同人ゲームの仕様の考え方
――ゲームの仕様について、しっかり固めてから作るタイプとそうでないタイプがあるかと思いますが、Ixyさんはどちらのタイプですか?
Ixy:
僕の場合、一旦最初にしっかり仕様を固めるんですが、作っているうちにアイデアが湧いてきたりするので、割とライブ感重視で「ここ、こうしない?」と提案しちゃいますね。
本当なら最初に全部思いついてあとは作るだけ、という方がいいんでしょうけど、実際に作ってみないと分からないこともあるので……ワガママを言うもんだから仲間内でも結構衝突しますし、「それ最初に言ってくださいよ」と言われちゃうこともありますね。
でも実際それでブラッシュアップされている面も結構あります。
――そうやって完成度を高めていくんですね。
Ixy:
でも1点だけ気をつけないといけないことがあります。それは、1回終わった工程は、バグなどでない限りはやり直さないということです。
――それはなぜですか?
Ixy:
たとえば、ゲームを作っている最中にも「この絵、今ならもうちょっといいのが描けるな」ということが見えたり、そこを変えたくなったりするんですよ。でもそれをやり始めるとキリがなくなって、結局完成しなくなるんです。
絵に関しては特にありがちなのですが、手を加え始めると「ここも、ここも」と気になりだしてしまうものです。そうなってしまうと終わりのない修正地獄の始まりです。だから、もし根本的に変えたい部分が見つかってしまったとしても、それは次回作に回して、まずは本来すべき作業に集中して、完成させることに注力することをお勧めします。
なお、これは余談ですが、その点ではゲームに声優さんを起用したのはよかったですね。ボイスを収録してしまうとシナリオやセリフはロールバックできなくなってしまいますから(笑)。声優さんの起用でもたらされた意外なメリットでした。
――なるほど。他にもゲーム開発にあたって失敗しやすいポイントや注意すべきことなどがあったら教えてください。
Ixy:
自分の失敗談で言うと、実は『リルスティア』の前に友達とゲーム制作をしたことがあったんですが、それは頓挫してしまいました。体験版までは出したんですが。
――何が原因だったんですか?
Ixy:
体験版を出すまでは上手くいって、ユーザーの反応も結構よかったんですよね。
逆にそれで満足してしまったというか、安心しちゃったところがあったんでしょうね。しばらくしたらどちらも手が止まってしまいました。
実際のところ、友達同士の企画だったので緊張感に欠けていたところはあると思います。別に完成しなくても困らないし、他に遊びたいこともあったし。頓挫したところで友達との関係が変わるわけでもないですからね。
――なあなあで気が抜けちゃったんですね。
Ixy:
そうですね。だから仲間内でゲームを作るのは失敗しやすいと思っておくべきだし、それでも友達とゲーム開発をするなら、緊張感をどう演出するかが肝だと思います。
僕に関して言えば、少なくとも「完成しなかったら罰ゲームね」くらいは決めておけばよかったですね……。結構痛いやつがいいと思いますよ、罰金とか(笑)。
また、友人とのプロジェクトでなくても、自分を含めたメンバーのモチベーションを高く維持するのは実は難しいことで、ゲーム開発のプロジェクトが空中分解する原因の多くはやる気の低下だと思います。
ゲーム開発はただでさえ長期化しやすいですから、たとえば1か月何も進まなかったりすると、企画者自身が飽きちゃったりするんですよね。
だから自分自身が飽きてしまわないよう工夫すべきですし、少なくとも仲間だけでなく自分のモチベーションに対しても意識を向けておくべきだと思います。
著:いちあっぷ編集部
構成・執筆:いしじまえいわ
続きは、『DL同人、はじめてみたらこうだった 成功者の実体験から学ぶ自分らしい稼ぎ方』より御覧ください。
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