設定を考えながらデザインしよう! ドラゴンの描き方講座(前編)
2016.01.12
イラストレーター硝子屋裕さんによるドラゴンの描き方講座の後編です。
今回も、イラストレーター本人の描き下ろし記事!
後編では前編の内容を踏まえ、解剖学や生態の観点から哺乳類(馬)をベースにドラゴンの描き方を解説します。
各パーツの描き方を詳しく解説しながら進められます。
という順番で進めます。全編を通して読んでも、気になるところだけ読んでもOKです。
それでは後編、スタートです。
前編で骨格とポーズが決まったので、まずは頭から描き込んで行きましょう。
前編の考察からドラゴンの骨格を哺乳類のものにしました。
では、ドラゴンの頭部はどうなのでしょう。
これこそ、爬虫類的な骨格なのではないでしょうか?
爬虫類の頭骨と、哺乳類の頭骨を並べてみました。
ドラゴンは陸生の脊椎動物と仮定します。
口がピッタリと閉じる構造だとしたら、爬虫類は柔軟性のない上唇を下に張り出していて、上の牙は少ししか見えません。これは恐竜も同様です。
哺乳類は上唇をめくり上げて牙を見せる事が出来ます。
これは表情を作る筋肉があるからなのですが、この表情筋は哺乳類にしかありません。
ただし、ネコにはなくイヌにはあるなど、同じ哺乳類の中でも差が見られます。
鋭い牙を見せて威嚇するイメージがあるドラゴンは頭部も哺乳類のほうが近いかもしれません。
ただし、威嚇とは「俺は危険だから攻撃するなよ!」というお互いにリスクのある直接的な争いを避ける手段で、高等な動物ほど威嚇だけで争いを解決するそうです。
ドラゴンは爬虫類よりも進化していそうなため進化の過程で表情筋を発達させたのかもしれません。
また、口周りの構造は食性に直結するため上顎は分厚く力強い、肉食の竜に相応しいものにしています。
これは有名なお話ですが、肉食動物と草食動物とでは目の付く位置が違ってきます。
草食動物は、目が顔の横側についています。
このおかげで視界が広く、前を向いていても振り返る事なくかなり後方まで目視する事が出来ます。これは常に広い範囲を確認し、自分を狙っている天敵にいち早く気付くためです。
肉食動物は、目が顔の正面についています。
草食動物ほど広い視野は持ちませんが、これにより前方の獲物との距離感がわかりやすく、獲物を襲う際に有利になります。
ドラゴンは獲物を狙う捕食者側のイメージがあり、肉食のイメージも強いため、目は正面についているのかも知れません。
ちなみに、爬虫類や両生類は多くが肉食ですがトカゲもカメもカエルもイモリも、例外的に目は側面についています。
このことからも、頭部の特徴は哺乳類に近いと言えるでしょう。
ファンタジーを象徴するモチーフの1つでもある角。
多くのドラゴンには大きく雄々しい角が生えています。
ですが、そもそも角というのは牙や爪を武器に出来ない草食動物のみが代わりの武器として授かったものです。
そのため、実在する動物に角のある肉食動物はいません。
……実はドラゴンはベジタリアンなのでしょうか。
健康的でとても良い事なのですが、今回は肉食の前提で進めているため他の観点から考えましょう。
武器以外の用途として考えられるのは、「大きい角を持っている個体は雄として優秀である」という証明でしょうか。
もしくは、古くから続く悪魔的なシンボルとして角が装飾されているのかも知れません。
どちらにせよ、武器としての用途は優先しなくても良さそうなので個性を出すための装飾として活用しましょう。
頭部のシルエットは非常に大切です。
今回はあまり過剰な装飾をせず、ベーシックなドラゴンにしたいため、比較的、遊びの少ない角にしてあります。
また、鼻と目の延長線上に角を配置するとシュっとした印象になりやすいです。
逆にそれより外側だと幅広で力強い印象になります。
今回はその中間のイメージのため、若干外側に向けて生やしています。
ドラゴンの耳と言われてどういったタイプを想像するでしょう。
実は、世間的に溢れているドラゴンのイラストのほとんどが耳にあたる器官の描写がされていないように見えます。
デフォルメの都合であったり、他の器官を備えていたりする可能性はありますが、今回はあまりデフォルメのされていないドラゴンのため、リアリティの演出として描写しない手はありません。
考えられるデザインとしては画像の3種類になります。
右から
今回は鱗のあるドラゴンを想定しているため、爬虫類的な外見に合わせ最後の耳を採用しています。
骨格自体は哺乳類のものであると説明しましたが、
では何故、多くの場合ドラゴンは爬虫類のようなイメージがあるのか。
前編にも書きましたが骨格は哺乳類でも、外見的特徴は爬虫類のものが一般的だからです。
そのため、手足に関しては哺乳類の特徴よりも肉食恐竜のようなものがオーソドックスかと思います。
今回は恐竜に近い鳥類のものを参考に考えてみます。
多くの場合、動物は体重を爪では無く指の肉で支えています。
ネコは普段、爪を上にあげて地面に触れないようにしています。
このように地上を走る動物の爪は、地面を捉えるスパイクの役割をしています。
スパイクである爪は、摩耗して先端が丸くなり殺傷能力が落ちます。
それに対し、爪を武器とする動物は普段、爪が地面に接しないように歩きます。
このことから、爪は「武器」か「スパイク」の二種類に分類出来そうです。
架空の動物を描く時も、その爪がどちらの役割を果たすのか考えながらデザインすると
その動物の生活が見えて、より説得力が増すかと思います。
また、歩くための足は指が前向きに生えています。
ワシのようにかかとから指が生えている足は歩行には向きません。
自分のかかとから指が生えていた場合、足を前に出して地面に着くときに邪魔になるであろう事が容易に想像できます。
多くの場合ドラゴンの皮膚を覆っている鱗。
実際に描いてみると物量が多く、非常に大変な作業の割に完成してみたらビッシリと鱗が描かれていてあまりかっこよくない。そんな経験は無いでしょうか。
通常のイラストでも、画面の全部を細かく描き込まず、見せたい要所要所で描写密度を変えていきます。
これはドラゴンの鱗でも同じで、全てを均一なサイズの鱗で覆うとごちゃごちゃとして見づらいドラゴンになってしまいます。
今回は部位ごとに大中小3つの鱗を基本に描写しました。
どこを大きい鱗にするかは部位により変わりますが、
例えば胴体の場合は、腹部(今回、腹部は鱗を想定していませんが)が1番大きく
背中側が2番目に大きい鱗になっています。
そしてそれをうまく繋ぐための小さい鱗と、3種類の鱗によって構成されています。
また、ドラゴンを描く際はいきなり鱗を少しずつ描いて埋めていくよりも
一度鱗のない状態のドラゴンを描いて、そこに着せていくようなイメージのほうが想像したシルエットを反映しやすいでしょう。
今回、馬をベースにしていますが通常の馬は体重およそ500kgにも及びます。
ですがドラゴンは馬より何倍も大きい事が予想されるため、その体重はゆうに1tを越えるでしょう。
そんな巨体のドラゴンが実際に飛ぼうとするなら、必要な翼幅は末端が目視出来るかもわからない程です。
その他の細部の調整(たとえば肩甲骨での脚/翼の相互作用、胸骨の拡張、あり得ない程に肥大した胸筋など)も考慮しなければいけません。
美的配慮から、今回は翼のサイズも胸筋も通例に従って抑えています。
バランスが崩れない程度に胸筋や、翼の付け根の筋肉も肥大化させる程度であれば、逆に説得力は増すのではないでしょうか。
翼膜は翼の付け根に集束させてしまいがちですが、しっかりと風を捉えるため、体の側面を広く使って生やすようにしています。
お疲れ様でした!ドラゴンの完成です。
今回は細部の説明や、ドラゴンに対する考え方の紹介のため着彩はしていないのですが、それらしくなったでしょうか。
結局、ドラゴンは哺乳類だったのか爬虫類だったのか。
こうして見るとドラゴンも実は複数の動物の特徴を混ぜあわせた存在と考えられます。
強いて分類するのであれば「哺乳類型爬虫類」という事になるそうです。大人ってズルい。
ドラゴンは当然、ファンタジーの中の生き物です。
ファンタジーに正解はありません。
今回は一例としてあげましたが、別に爬虫類の骨格だって良いんです。
翼が無くても良いし、海竜のような海に棲息するドラゴンだってOKです。
要は、そこにどれだけの説得力を与えられるかです。今回はそれの考え方のきっかけになれればと思います。
自由な発想で、君だけの最強のドラゴンを作って友達に差をつけろ!
◆HOW TO draw the DRAGON
著者:G.River/出版:ガウルの翼/2010年発行
1体のドラゴンをメイキング形式で完成まで解説した1冊。
同人誌のため、ページ数は少ないがそれを感じさせない程の情報量がある。
今回の講座の考え方において、ベースともなった非常に素敵な本のため
クリーチャーを描くにあたり、是非読んで欲しい1冊。
◆幻獣デザインのための動物解剖学
著者:テリル・ウィットラッチ/出版:マール社/2013年発行
「スター・ウォーズ」「メン・イン・ブラック」「ジュマンジ」などのクリーチャーを
生み出した著者による、哺乳類をメインとした動物学に基づく精密なスケッチ集。
通常の動物解剖学の指南書と違い、クリーチャーに転用するのを前提とした本のため
骨格からクリーチャーを考えたい人にオススメ。
◆骨格・生態・バランスがわかる‐HORSE‐やさしい馬の描き方
著者:ジェニファー・ベル/出版:マール社/2013年発行
全ての動物の基本とも言われる馬を、丁寧に解説した入門書。
英国でベストセラーとなった本書だが、待望の日本語翻訳版が登場。
◆スカル アラン・ダドリーの驚くべき頭骨コレクション
著者:サイモン・ウィンチェスター/出版:グラフィック社/2014年発行
世界の高名な博物館でさえも所有していない、珍しい頭骨を含む
膨大な数の頭骨を収めた写真集。
様々な形の頭骨は、眺めているとインスピレーションを与えてくれる。
[著・画:硝子屋裕]
pixiv http://www.pixiv.net/member.php?id=239674
幼少期に美術と出会えず、その類い稀なる才能は発揮されなかった。
国内外で精力的な活動を行っていない為、本場NYで硝子屋の名を知る者はいない。
元アートディレクター。