人物の状況が一目でわかるような効果的な構図や、自然と心情が伝わってくるような目線の方向など、舞台や映像・絵画の分野では既に「お約束」とも言える演出方法がいくつか存在します。
描き手としてはより表現したいことが伝わるテクニックであり、観客としてもその意味を知っているとより一層作品を楽しめるTipsです。
今回はそんな人物の「目線」や「位置取り」が示す意味の中から、特に重要なポイントを5つ紹介します。
▼目次
1. ルッキングルームとヘッドスペース
普通の人物の絵です。この人物を描くと周りには――
目には見えない三つの空間が発生します。
赤い部分が人物の視線の先の空間(ルッキングルーム)、青い部分が背後の空間(ビハインドスペース)、そして頭の上の(ヘッドスペース)です。これらを意識して調節していくと様々な演出が可能です。
人物を少し右にずらします。そうするとルッキングルームが広がり、視線の先の空間が強調され、人物の意思が感じられる絵になりました。構図的にも三分割気味にすると安定感が出ます。
逆にルッキングルームを狭くするとこのような感じになります。背後からの圧力がかかり、人物にはなんらかの危険が迫ってるようにも見えてきます。絵の緊張感を高めるのにも使えます。
ヘッドスペースを切り取って画面の贅肉を取り除き、シャープに見せる方法があります。最初は不安かもしれませんが、頭の先を切った方が映像的要素を含んだ絵になります。
これにルッキングルームを少し広めに確保するとよりキマった感じになります。映画では最もよく使われる鉄板構図の出来上がりです。
逆にヘッドスペースを思い切って大きくすると開放感のある絵になります。上空に何かを飛ばし、高所へと目線をダイナミックに動かすのも定番の仕掛けです。
このヘッドスペースを活かすか殺すかで画面の”抜け”が大きく変わってきます。サムネイルの段階で調節して一番いい感じのスペースを探してみてください。
2. キャラクターの配置と上手・下手
キャラの配置場所を間違えると、人物同士の関係性を間違って伝えてしまうことがあります。それを防ぐ為に、古典的な演劇でも使われてきた「上手と下手」の考え方を少し説明していきます。
必ずこの向きにしなければならないというものでは全然ありませんが、画面内の「左」「右」には意味があるということだけ覚えておいてください。
舞台演出の世界で使われている上手下手の考え方ですが、昔から映像や絵画の世界でも応用されてきたようです。
これは人間の心臓の位置に関係するそうですが、今回は簡単にどんな使用例があるのか解説させていただきます。
- 舞台左(下手)の役者は、[挑むもの/立場の弱いもの/小さきもの]という意味合いになります。
- 舞台右(上手)の役者は、[挑まれるもの/立場が強いもの/偉大な人物]という意味合いになります。
例を描いてみます。こうすると上手の魔王に挑戦する下手の王子という構図になります。横スクロールのアクションゲームでも、ボスに挑む時は同じ状態になりますが、こちらのほうが自然に受け止められます。
これを反転すると少し印象が変わってします。王子が挑戦を受けるような感じにも見えてきます。立場が強い魔王がお伺いを立てているように感じます。
これは日常描写でも適応できます。例えば、かっこよくて強い先輩キャラはやはり上手に立たせた方がしっくりきます。逆にすると後輩の方が主導権を握っているような印象に変化します。
画面の左右は視線の向きでも注意するポイントです。
- 画面左(下手)への視線は[強い意志/未来へ向かう/ポジティブ]などの意味合いになります。
- 画面右(上手)への視線は[弱い意志/過去へ向かう/ネガティブ]という意味合いにもなります。
3. ライティングと人物の向き、光と目線の関係性
目線の方向は照明効果とも密接に関係しています。それらを組み合わせると一気に演出の幅が広がります。実際にいくつか例を上げて説明していきます。
画面右からの光で人物を照らした状態です。この状態だと人物はどことなく弱く見えます。光が来る方向と逆に目線が向いているためです。
つまり暗闇の方を見ているので心理状態もネガティブに見えてしまうのです。
今度は目線を照明の方に向けてみます。そうするとまた印象が変わりました。光の方向を見ている人物は希望や強い意思を持っているような印象に見えます。
これは構図を変えても同じ事です。人物の目線の先に光源があるので、暗い場所でも安心感がある絵になります。このように、目線と照明の組み合わせは特に人物の心理描写に有効です。
4. カメラ目線
人物がこちらを向いているかいないか、見ているかいないかで絵の印象は全く変わってしまいます。絵を描く前に真っ先に決めておきたいポイントの一つです。
どちらを使っても良い画面が作れるように、二つの例を上げて説明します。
人物がこちらを向いている絵です。古くは肖像画、プロマイドや雑誌の表紙でも多く見受けられますが、目がこちらを向いているというだけで観客は注意が引き付けられてしまいます。
目の焦点が対象者をとらえているか、描きながら随時チェックして描きましょう。
※例えばスマホ視聴者向けならやや近めの焦点で、大判のポスターならもう少し距離感を取った目付きで描きます。
逆にカメラ目線ではない絵はルッキングルームをしっかりと確保する事がやはり重要です。どこか遠くを見ているような感じは、人物に"ミステリアス"な印象を与えます。
観客に「この人物はいったい何を見ているんだろう?」と気になってもらえれば成功です。
5. 複数人の目線の使い方
人物の目線が画面内に複数ある場合は、その方向を決めなくてはいけません。同じ方向で収束させて強めたり、交差させて摩擦を起こさせたり、逆方向に飛ばすなど、いくつかのパターンをご紹介していきます。
目線を同じ方向に何本も飛ばすパターンです。矢印は画面内に走るベクトルを示しています。これで単体の人物だけでは出せない力強い画面になりました。
また、三人の男性は全員画面の左を向いているので、強い未来志向を感じさせます。極端なたとえですが、100人が同じ方向を見ていたら凄いエネルギーのある画面になります。
「手前のキャラは左向き、つまり未来志向の熱血主人公タイプ、後ろのキャラは右を向いているので過去に囚われている、しかし上手側にいるので、主人公の挑戦を受ける上の立場にいる」
というように一枚の絵でストーリーと人物設定を読ませるような仕掛けになっています。
また、目線が正反対に位置しているため、この二人の少女の目指す方向が違う、もしくは光と影のような「宿命のライバル」という意味合いにもなります。
これが同じ方向だと仲間、頼れる存在というように、二人の関係性がまるで変わってしまいます。
二人が見合った状態だと矢印が交差して衝突するので、二人の間には見えない緊張感、パワーのようなものが発生します。
今回はこれで以上となります。画面を構成するときは、目に見えない空間バランスやベクトル、エネルギーを意識することが大変重要です。イラストや写真、古典絵画、漫画、映画など、ジャンルに囚われず見てみると色々と参考になるかと思います。
著・画 セーガン
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メーカー勤務。アニメーション、漫画、講座等の自主制作活動に日々励む。ライフワークは映像学。現在絵コンテの描き方を勉強中。